画像認識と混雑予測で旅館従業員の業務効率アップ
1995年の設立以来、オーダーメードのシステム開発で実績を重ねるアイビーシステム。同社は2018年からAI事業に本格参入し、NICOの先進技術開発支援事業を通じて、温泉旅館内における浴場等の混雑状況をAI・画像認識を用いて事前に予測通知するシステムの試作開発に着手した。AI活用のさまざまな可能性が見えてきた。
「システム開発には人手がかかるという点で、「先進技術開発支援事業」のように、人件費に対する助成制度があるとありがたいです。今後のAI活用の可能性としては、例えば新型コロナウイルスなどの対策として、サーモグラフィーと組み合わせて街にいる人の体温や位置情報の把握も可能になるかもしれません」と若桑社長(写真左)。
「当社は25年前からさまざまな業務系システムを作ってきた経験があります。ここ10年はタブレット系スマートアプリやクラウドの需要も増えています」と山澤システム部長(写真右)。
AIプログラミングという新たな挑戦に踏み出す
温泉旅館の通路を映した映像。行き交う人々をフレームがキャッチし「男性」「女性」「宿泊客」「従業員」を次々に識別していく。今回紹介するアイビーシステムが開発したのは、このAIによる画像認識を利用した混雑予測システムである。
そもそも同社がAI分野に進出したのは、IBMのAI「ワトソン」を活用したシステムを作れないかと以前から打診されていたことがきっかけだった。しかし、同社の主要クライアントである県内企業にとって、年間数百万円にもなるランニングコストも含め、ワトソンはあまり現実的でないと感じた若桑社長。「それなら自分たちでAIエンジンを作ってはどうだろうと考えました」と当時を振り返る。その後の展開について「AIを作るのは当社初の試み。NICOにもご協力いただきながらスタートしました」と山澤システム部長。「やってみると数学的にかなり難しい部分も多く、新潟におけるAIの第一人者である長岡技術科学大学の野中先生にお願いして、当社社員向けにAIに関する講義を5回ほどしていただきました」。
野中准教授の講義を踏まえ、地元企業のためにAIで何ができそうか話し合うなか、付き合いのある月岡温泉「ホテル清風苑」の会長にヒアリングしたところ、最大の課題は現場の効率化との声を聞く。例えば大浴場の清掃では、利用客の多少に関係なく一定時間ごとにお湯を抜き、掃除し、お湯を張って沸かし直すのがホテルのルールだ。しかしそれでは利用客が少ないタイミングで不要な掃除をしている可能性もある。シャンプーやリンスの補充も同様だ。そうした課題に対して出たアイデアが、AIによる画像認識と混雑予測システムだった。
カメラ位置やAIの学習方式を調整し識別精度は約9割に
システム構築では、AIに男女それぞれ約2万枚の画像を認識させ、さらに制服姿の従業員をあらゆる角度から撮影した画像約100枚も学習させた。そして館内カメラで撮影した動画からAIが「男性or女性」「宿泊客or従業員」を識別する。カメラの設置場所やアングル、AIの学習方式やサンプル画像の枚数など試行錯誤を繰り返し、精度を9割近くまで高めることに成功した。さらに、宿泊客の動線から3時間後の混雑状況を予測。その情報を従業員のスマートフォンに転送することで、より適切な人員配置が可能となった。
今回のケースは短期間の実証実験だったが、ホテル側は「今まで見えていなかった部分が数字として見えてよかった」と高く評価。また、このAIをアレンジし、例えば展示会などの大規模イベントの来場数の把握・分析などに水平展開できる可能性も見えてきた。これは一律にパッケージ化された製品では難しく、AIを一からプログラミングすることのメリットといえる。
一方、実証実験でネックになったのは動画データの重さだった。館内カメラの台数が増えるほど当然データも重くなり、通信回線は一時パンク状態に。2018年当時は技術的に仕方ないとの結論に至ったが、現在は動画のデータを旅館のサーバに送らず、カメラの中で直接AI解析が実行できるプロセッサーも登場しており、改善は可能だ。
館内に設置したネットワークカメラ映像から「人か人でないか」「男性か女性か」「宿泊客か従業員か」を分析。
AIありきではなく「したいこと」を明確にする
では実際にAIを導入するには、何から始めたらいいのだろうか。若桑社長は「開発側から助言させていただくとしたら、お客さまの会社が『やりたいこと』を明確にすることが最も重要です」と話す。忘れてはならないのは、目的はAI導入ではなく、その活用により業務の効率アップや顧客満足につなげることだ。「そのためには、お客さまから上がってくる声が一番大事」と若桑社長。「実は、我々が自己満足でプログラムを作っても全然売れないんですよ。喜んでいただけるのは、お客さまの声にお応えできたとき。お客さまの会社で困っていること、なおかつ『こんなことはできないんじゃないか』と思われることでも、まずはご相談ください。100%は解決できなくても、半分はできる、8割はできる、できない部分はこれで補える、といった解決策をご提案できるかもしれません」。
実際、工程管理にAIを活用できないかという製造系企業からの相談も増えているという。AIを何に活用したらいいかわからない、しかし抱えている課題はある。そうした場面の解決の糸口として、AI活用を視野に入れる時がきている。
企業情報
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