調査した専門店は100軒以上
究極のカレースプーンが誕生
取締役工場長 山崎 修司 氏
国内営業部係長 中村 雅行 氏
「お客様の声を聞く環境を作れば、本当にお客様が喜んでくれるものが出来る」と話す山崎社長(写真中央)。中村係長(写真右)が訪ね歩いたカレー専門店は100軒を下らない。「係長はカレーを食べ続けて、体重が増えちゃったんだよね」と笑い話をはさみながら、山崎工場長(写真左)は労をねぎらう。
製造と営業の横断チームで国内向け商品開発を開始
山崎金属工業が開発・販売している「カレー賢人」は、カレーをおいしく食べることに特化した専用スプーンだ。最深部を一般的なスプーンより先端寄りにしてカレーをすくい易く、口に運びやすくした「キャリ」、左右非対称で先端がヘラのように斜めになっていて、具をカットし易い「サクー」の2種類がある。発売当初からさまざまなメディアに取り上げられ、カレーマニアを中心にSNSでも情報が拡散されるなど、好調な売れ行きを見せている。
欧米へ輸出する高級カトラリーを主軸としてきた同社が国内向け商品に目を向けたのは、円高などの影響で海外市場での売り上げに変化が出てきた時期。「海外で山崎ブランドを育ててきましたが、これからは海外だけでは競争できない。そこで国内向けに力を入れようと、日本人が最も使うカトラリーを考えたとき、国民食であるカレーのスプーンが候補になりました。作るからには品質、デザイン、性能とも最高のものを目指して開発に取り掛かりました」と山崎社長は振り返る。
専門店店主とマニアに会いにカレーの聖地・神田神保町へ
「ポイントのひとつは、製造と販売がチームになって開発したこと。そして、カレーマニアの懐に飛び込めた優秀な営業がいたことですね」と話すのは山崎工場長。「他のカレースプーンとは違う、当社らしいものを作るためには、まずカレーのプロの声を聞こうということで、カレーの聖地と言われる東京の神田神保町に調査に行きました」。
担当したのは中村係長。午後の休憩時間を狙ってカレー専門店に飛び込み、スプーンについての意見を聞いた。最近は皿が以前より大きいものが主流になり、皿とスプーンの大きさのバランスが悪いという話を聞けば、すぐに製造にフィードバックし、柄の長いスプーンの試作品を持って、また店を訪れる。そうして情報を収集するなかで、「神田カレーグランプリ」の関係者を通して、カレーマニアの人たちの集まりに参加することができた。
「最初は、そもそもスプーンを気にしたことがないと言われましたが、そのうち最後がきれいにすくえない、具をスプーンでカットしようとすると具が転がる、スプーンが浅くて理想の量がすくえない、といった意見が出てきた。自分たちでは意識していないストレスが、実は存在しているのだということが分かりました」と中村係長は話す。
海外ブランドを育ててきたリサーチ力と技術力
こうして最終的に4種類のスプーンをもとに意見をもらい、キャリとサクーを商品化。次に悩んだのは価格だ。カレースプーンの標準価格が600~800円のところ、カレー賢人は1250円(税別)だ。「我々はナンバーワンのカレースプーンを作るために、形状も磨きもこだわりつつ手に届きやすい価格にしようとみんなで決めました。結果、ターゲット層よりも若い世代の高校生などの学生でも買っていただける商品になりました」と山崎工場長は話す。
販売を開始すると、メディアが取り上げた効果から、意外にも法人からのノベルティやギフトの注文が入った。また、マニアの皆さんが愛用してくれ、口コミやSNSで一般消費者に評判が広がっていった。さらに、シンガポールへの輸出も行っている。名物のシンガポールチキンライスを食べるとき、サクーが鶏肉を切るのにちょうどいいと評価された。
山崎社長は「成功した背景には、欧米の国ごとに異なるニーズを分析し、マーケットに即した商品、ストーリー、デザインを作り、磨き続けて戦ってきた山崎ブランドのやり方が基本にあるから」とも分析する。山崎工場長は「NICOの高付加価値化サポート助成事業を利用することで、これまでのやり方とは違う新しい挑戦ができました。ニーズ調査から始め、付加価値というものを考え直し、改めてそれを意識した作り方が出来たと思う」と振り返る。目下、次の開発に取り組む同社。「カレー賢人の一連の経験が非常に役立っている」という言葉が、次なるヒットを期待させてくれる。
企業情報
山崎金属工業株式会社
〒959-1263 燕市大曲2570
TEL.0256-64-3141
FAX.0256-64-3145
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