日本の刃物道具の品質と各国のニーズを融合し世界市場を開拓
大工道具、刃物道具の卸会社として1946年にスタートし、その後、信頼性の高い自社商品の製造を目的に1972年に独立した角利製作所。創業初期より海外展開に取り組み、取引先のニーズに応じた商品開発に力を注ぎながら、現在世界10か国以上に販路を拡げている。
ドイツの取引先企業に1年半勤務していた加藤常務。「ドイツでは道具の経年変化を楽しむために、鋸の柄などは濃い色合いが好まれること、道具を代々引き継ぐという観点で、価格が高くても、良いものを長く使いたいという価値観を持つ人が多いことが分かり、その後の開発に役立ちました」。検品を担当した経験から、品質に影響する輸送時の梱包には特に配慮するようになったという。
東南アジアの展示会をきっかけに各国からの受注が増加
大工道具のノミ、カンナの金属部分の製造を主力とする角利製作所。伝統的な日本の大工道具作りの技術を基盤に、海外のユーザーが求める商品開発にも力を入れる同社は、40年以上前から地道に海外販路を開拓。近年の売上は70~80%を輸出が占めている。
海外進出のきっかけとなったのは、1978年にシンガポールとタイで開催された展示会への参加だった。「当時は輸出の経験がほぼなく、現地のバイヤーからノミを2,000本発注したいと言われても、社長も即決できなかった。日本で検討して返事をすると伝えたが、周囲から“すぐにOKしたほうがいい”と言われ、翌日連絡したそうです。しっかり値引きを要求されたのですが、これを機に開発したばかりの西洋ノミの輸出が本格的に始まりました」と加藤常務。この展示会で関西の工具輸出商社の目にとまり、販路が拓かれたほか、欧米からの直接貿易の引き合いも増え、各国からの受注が増加した。
海外進出が軌道に乗り始めた要因には、価格の優位性もあった。当時、同社の西洋ノミは欧米並みの品質でありながら価格が約2割安いことから、多くの海外業者に評価され、有名メーカーのOEM生産が増大。一時期は42万本もの注文があったという。取引先から求められる均一した品質が保たれるように機械設備も整えた。ところが1985年のプラザ合意によって円高が急速に進み、輸出が不利な状況になる。「1ドル240円が2年後には120円と、ドル換算で一気に5割も高くなり、注文が激減しました。わずかに続いていたアジアのお客様からの注文で何とか輸出を止めずにすみましたが、そのときの経験から、苦しい時でも継続した取引ができる生産体制や商品力、お客様との信頼関係を築くことの重要性を感じました」。
刃の研磨は機械加工での量産体制を整えつつ、最後の仕上げは熟練工による手作業。パーツ加工は協力会社へ委託しながら、豊富なラインナップの大工道具を製造している。
独自の商品開発へシフト
低迷が続くなか、ドイツでバイオリンの部材や専用工具を扱う老舗工具店の4代目との出会いが、大きな転機となる。「燕三条地場産業振興センターの方から社長に電話があり、ノミが欲しいという方が来ているから会ってほしいと。そこで西洋式のノミを紹介すると、“伝統的なノミが欲しい。日本にはこんなにいいノミがあるのに、なぜ西洋のコピーを作っているんだ”と言われたそうです」。日本の高品質な道具が求められていると知った社長は、三条の職人と商品を丁寧に紹介した100ページもの提案書を作成し、ドイツに郵送。その後2年経過して大きな注文につながった。
この取引を機に、伝統的な日本の製法で、欧米ユーザーが使いやすい道具を独自に開発。角利製作所と銘打ったアイテムが掲載されたドイツの工具店のカタログを見た他国からも問い合わせが来るようになり、販路が拡大していった。現在、木工職人が多く道具への要求度が高い欧州向けの高級ラインから、量販店で販売される低価格帯のアイテムなど幅広く展開している。「全ての商品を高級品にするというのではなく、その国の市場に合った、お客様が求める品質、価格帯のアイテムを情勢に応じて提案できることも大切だと思います」。
「鍛流のみ」は、西洋式の形をしながら硬い鋼と軟らかい鉄を合わせた日本式の技術で作られたハイブリッド洋ノミ。最高級刃物鋼「青紙」を使いながらも研ぎやすく、ノミの裏面は西洋式のように平らになっている(写真上)。
同社の代表商品である「百年物語」で開発した「角利替刃式細工鋸」(写真上)は、専門家の助言により、柄のデザインに沿って赤樫の美しい木目を出すために材料の使い方を調整している(写真左)。95点の品質を100点まで高めることは容易ではないが、その後の評価につながり、効率や採算を考えるよりも大事な価値があることを学んだという。
直接商談することの大切さを再認識
現在は、直接貿易と間接貿易を合わせて10か国以上へ輸出を行う。基本的に取引は1国1社と決め、価格競争を避け、顧客との太いパイプを作ることを重視している。「時差がある取引先からのメールにもその日のうちに必ず返事をし、クレームに対しても公的機関で検査した結果をもとに説明するなど、対応を徹底してきたことも海外に販路を作ることができた理由の一つだと思います」と加藤常務。さらにコロナ禍を経て、各国のバイヤーと直接会って商談することの大切さを実感しているという。「難しい交渉事もお互いの顔を見れば感情も伝わりますし、市場のニーズもつかみやすい。クレームを聴く場合も現物を見ながら問題を話し合うことで安心していただけます」。
市場に選ばれる商品作り
ブラッシュアップの重要性
これまでの経験から「他社や他国のメーカーと似たような商品を作るから不要な競争にさらされるのであり、我々にしか作れない独自の技術と経験を活かした商品が作れれば不要な競争を強いられなくて済む。ただし、日本でのモノづくりというものを裏切らない品質と魅力あふれる独自の製品でなければならない。」ということを痛感し、独自のモノづくりを追求する同社はNICOの「百年物語」にも参加する。
2005年度に開発した「鍛流のみ」は、切れ味はもちろん研ぎやすく、赤樫を使用した握りやすいハンドルが特長。ドイツの見本市アンビエンテで発表し、イタリアとドイツで採用された。さらに2007年度には、オリジナルの鋸シリーズを開発する。「展示会に出した時点での商品は粗削りだったり、現地の要望にマッチしなかったりすることもあるので、すぐに量産しないで”ブラッシュアップ”することの重要性をアドバイザーの方々から学びました」。当初4種類だった鋸は、ドイツのマイスターからの助言を受け、その後11種類に増えて再デビュー。ヨーロッパをはじめアメリカ、オーストラリアにも販路を拡げている。
「費用も時間もかかる開発と、初期段階の展示会でのPRを含め、NICOの支援をいただけたのはありがたかったです。百年物語で最高級の品質に挑戦したことは、当社の世界市場の開拓にとても重要だったと感じています」と加藤常務。これからも顧客との信頼関係を築きながら、同社にしかできない大工道具を提供していく。
2023年はドイツのアンビエンテと上海国際五金展に参加。
「ニイガタIDSデザインコンペティション2023」でIDS賞を受賞した、角利ジュニア向け木工道具セット「INHERIT 継 [Yuzuri]」。作品づくりの楽しさを継承していく道具として、ドイツでの販売を予定。
企業情報
株式会社角利製作所
三条市西本成寺2-3-53
TEL.0256-35-1115
URL https://kakuriworks.jp/