高い技術力と変化する時代への適応力で世界各地に取引先を拡大
1922年創業のタナベは、「熱技術と自動化(FA)技術で人と地球にやさしいものづくりを」をテーマに各産業分野に電気炉などの生産設備を提供。国内はもとより海外への納入実績も豊富で、北米、南米、アジア、欧州、アフリカなど世界中に販路を拡げている。海外展開に対する考え方や今後の展望を聞いた。
田辺社長は人材不足の問題について「海外に目を向けるだけで解決するわけではない」と力を込める。「福利厚生の充実、就業規則の改定も含めて、DXを進めなければならないと考えています。まずは社員や海外の人が気持ちよく働ける現場の環境を整えることが重要だと思います」。
1970年代から海外進出
時流に合わせて柔軟に変化
工業炉や溶融炉などの電気炉を設計・製造するタナベ。工業炉はリチウムイオン電池などの原材料となる特殊粉体の焼成・乾燥に用いる「ロータリーキルン」が主力製品だ。溶融炉は有価金属の回収リサイクルや、鋼・ステンレスなどの溶融還元処理に用いられる。同社の溶融炉は、高度成長期の1950~60年代に国内市場でシェアを拡大。全国にひと通り行き渡ったことを受け、70年代頃から海外進出を始めた。
「アメリカ・ユニオンカーバイド社の合金鉄炉を受注したことをきっかけに、海外のお客様に認知していただけるようになりました」と話す田辺社長。大手総合化学工業メーカーとの取引は大きな注目を集め、スペイン、ソビエト(当時)、ブラジル、南アフリカ、インドなど各地に顧客が増えていった。「経営学者のピーター・ドラッカーは『企業は環境適応業だ』と言っています。例えばソニーはラジオから始まり、ウォークマンやゲーム機など時代に合わせて変化していきました。当社も他社製の炉のメンテナンスから始まり、『自社で炉を作ろう』と開発。さらに炉に材料を運ぶコンベアーなどの周辺設備、環境リサイクル関連と、時代のニーズに合わせて変化してきました」。
事業展開で重要視するのは、「モノ」ではなく「技術や概念」を軸に考えることだという。「炉を作るメーカー」といえばそこで完結してしまうが、「熱に携わる」という概念で考えると幅が広がる。「極端に言えば、熱に関連して当社がパンを作っても良いわけです」と田辺社長。自分たちの技術が時代のどんなところにマッチするのか、どんな課題解決の役に立てるのか、柔軟な捉え方がイノベーションを生み、世界で認められる企業として成長を続ける土台となっている。2023年2月には経済産業省の『第56回グッドカンパニー大賞 優秀企業賞』を受賞した。
電気自動車の普及からリチウムイオン電池の原料となる特殊粉体(機能性粉体)を焼成する外熱式ロータリーキルン(回転炉)の需要が世界的に高まっており、その動きはこれからも拡大する見込み。大量の特殊粉体を製造したいとのニーズから直径1~1.4mの大型炉の注文も多い。
炉内に原料を供給し、攪拌させながら外熱方式で熱処理する外熱式ロータリーキルンによる焼成は、ベルトコンベアー式の焼成装置よりも省スペースで大量の処理ができる。特殊素材を用いて造られる加熱炉の素材の選択や設計力もタナベの強みだ。
タナベでは切削加工で出た金属の切粉を洗浄・脱脂する技術による金属回収リサイクルシステムも提供している。
「攻め」と「守り」の海外展開を目的に合わせて両立
「私は『攻め』の海外展開と『守り』の海外展開があると考えています」と田辺社長。攻めの海外展開は、新たなマーケットの活路を海外に見出すこと。一方で守りの海外展開は、日本の深刻な人口減少、とりわけ働き手の減少と深く関係する。日本の18歳人口は1992年の205万人をピークに下がり続け、2023年は112万人に落ち込んでいる。「人材不足に関して、製造業は『機械を入れて自動化すればいいじゃないか』と言われますが、すべての作業を自動化できるわけではありません。ライン化するほどの量やマーケットがない場合もあります。『それなら海外から人を連れてきては』となりますが、円安の今、外国人の若者から見て日本が果たして魅力的かどうか。さらに彼らはスキルアップのために転職し、自国に帰る可能性が常にあります。ではどうするか。今のものづくりを絶やさず守るために、海外に生産拠点を持つという選択肢もあると思うのです」。それが田辺社長の考える『守り』の海外展開だ。
タナベでは設備の納品に際して、実証テスト用の装置で入念なテスト加工を実施している。検証データをもとにお客様のニーズに合わせた装置に仕上げることから、その信頼性や定期メンテナンス等のアフターサービスが評価されてきた。昨年は、納入した炉をメンテナンスするための現地法人をスウェーデンに設立した。「これは攻めの海外展開の一つです。取引先は欧州などで拡大していますが、ものづくりを守る観点で考えると、物価の高い欧州が適切なのかどうか今後も検討が必要です。『攻め』と『守り』を両立してうまく回す必要があります」。
タナベが世界市場で選ばれてきた理由に、積極的な技術開発と検証テスト実施による信頼性、定期メンテナンス等のアフターサービスがある。工場内には3つの試験棟があり、お客様立会いのもと検証装置でテストを実施。同時に特殊粉体の焼成技術などの研究も進めている。
異なる価値観や文化の違いを理解することが重要
海外展開の難しさは、価値観や文化の違いも大きいという。例えばキリスト教文化圏ではキリスト教の基本的な考え方が「神との契約」にあることから、ビジネスでも「契約」が重視される。「契約書に書いてあることは絶対。日本では注文書一つで済むようなことでも、かなり注意して契約書を作り込みます。インドではヒンドゥー教の神話が根付いており、それを知ることが彼らの根本的な思考や行動を理解することにつながります」。
約50年に渡り海外ビジネスを展開してきたタナベにおいて、国際見本市などでの現地担当との対面商談は重要な足がかりとなってきた。コロナ禍で激減した展示会も戻りつつある。一方で、海外勤務ができる社員の育成・確保が課題だという。
最近は国内に比べ海外取引が10~15%ほど上回り、リチウムイオン電池などの業界は海外の投資意欲が大きく、企業の意思決定スピードが日本と比べて早い傾向にあるという。田辺社長は、展示会、得意先回り、市場調査と自ら海外を飛び回り、情報を収集する。「最近は人材採用のためにベトナムを訪問しています。日本で働いて技術を習得していただいた後、自国に戻るタイミングでタナベの現地法人を作る。そうした流れができたらと考えています」。同社ではDX戦略計画のもと、今年8月の創立記念日には海外取引の重要な窓口でもあるWebサイト等を一新、インフラシステムの強化も進めている。さらなる海外展開に向けて足場を固め、これからも走り続ける。
アジア最大規模の工業炉・関連機器の展示会「サーモテック2022」の様子。
コロナ禍ではオンライン営業やリモートも対応したが、トラブルが起きた際
の現地対応や対面での対応の大切さも再認識したという。
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株式会社タナベ
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