携帯機器で培った「剥がれない蒸着」をあらゆる分野へ
サンアロー株式会社 新潟工場
取締役工場長 吉田 実 氏/技術部設計課係長 野水 孝浩 氏
剥がれず、磨耗に強い蒸着のイメージを覆す新技術
工業用ゴム製品の加工メーカーとして1959年に発足したサンアロー株式会社。時計用防水パッキンの製造を手がけ、70年には世界最初の導電性シリコーンゴム加工技術の開発に着手した。この技術は時代の変遷とともに、電卓、リモコン、電子楽器、コードレス電話などの業界で、ボタンやスイッチ、キーボードに利用され、とりわけモバイル関連に使う技術は独自の進化を遂げている。
同社の強みは、設計から金型製作、成形、加飾および組み立てまでの一貫生産ができること。佐渡市やタイなどの自社工場で製品を量産し、国内はもちろん、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中近東など世界各国に輸出している。新潟工場は研究開発の役割を担い、集積した技術を組み合わせ、応用するなど「技術のハイブリッド化」を進める拠点。ここで生まれた新技術のひとつが「剥がれない蒸着」だ。
苦心して開発した技術が市場で支持されていることに喜びを感じているという吉田工場長(写真右)と野水係長(写真左)。「これからも社内で一貫してつくれる『ものづくりの会社』でありたい」と語る。
摩耗に強い蒸着技術で高品質化ヒット商品の誕生を支える
携帯電話等、電子機器パーツは製品のコスト削減や軽量化が進む中で、金属材料の代替品として樹脂が台頭。樹脂を金属に似せて見せる「金属調加飾」のために、高真空中で蒸気状の金属粒子を樹脂に付着させる手法「蒸着」が活用された。蒸着した金属調加飾の上には保護層(ハードコート)を塗布するが、耐摩耗性が低い。そのため「蒸着は剥がれやすい」というイメージが定着していた。
「取引先から『剥がれない蒸着』ができないかと打診されたことが開発の始まりでした」と吉田工場長。研究に2年を費やし、金属調加飾層を樹脂でコーティングする画期的な技術を開発した。従来の蒸着に比べ約20倍の耐摩耗性を実現し、精細な3D形状も表現可能。デザインや性能競争における薄く、軽く、高品質といったニーズにもより即応できるようになった。
「技術の確立まで試行錯誤したが、大手携帯電話メーカーから『この技術で量産化するのは世界初かもしれない。どうしても使いたい』と言われたときはありがたいと思いました」と開発を担当した野水係長。スマートフォンのヒット商品開発にも携わり、デザインの初期段階からデザイナーとディスカッションを行ってきた。画面が大部分を占めるスマートフォンは装飾を施せる余地が少なく、素材感がデザインの重要な要素となる。「パーツの輝きひとつで、全体の見え方、佇まいが変わる」とデザイナーからの要望は高く、技術者としてはやりがいがある仕事だ。
剥がれず、錆びない、耐水・耐液性が高い「金属調加飾技術」。例えば、普段持ち歩く車のカギなどのエンブレムマークに使用した場合、車体の寿命が終えるまで剥がれずに品質を維持することが可能だ。
クライアントの望むデザインを具現化していく同社の技術が光る、キーボードやデジタルカメラのキーシート。見た目だけではない「五感に訴える加飾」をコンセプトにしている。
取引のなかった業界へこの技術で参入したい
「剥がれない蒸着」を携帯業界以外にも展開したいと、昨年、NICOの支援策を活用した機械要素技術展(M-Tech)を始め、各種展示会に出展。各業界から高い評価を受け、手応えを感じている。「金属感を損なわず耐磨耗性も高いこの技術を応用し、今後は、家電やアパレルなど今までにお付き合いのない分野ともマッチングを図りたい。」と吉田工場長。「剥がれない蒸着」がスタンダードになる日も近いかもしれない。
企業情報
サンアロー株式会社 新潟工場
〒954-0076 見附市新幸町5-1
TEL.0258-61-4511 FAX.0258-61-4522
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