社内全体で原価を考える体制を整え、付加価値・利益率向上を目指す
「麒麟山 伝統辛口」を代表銘柄とし、飲み飽きない、すっきりとした飲み口の淡麗辛口の酒にこだわり、地域で愛され続ける酒造りを追求し続けている麒麟山酒造。根強い人気を誇るブランドを持つものの、コロナ禍、そして昨今の資材の高騰の影響を受け、利益構造の見直しが課題となった。専門家派遣事業の活用を経て、社内での様々な取組が進んでいる。
「専門家の先生とは、我々から“当社としてはこういうふうに考えています”と投げかけると“じゃあまずはそこを見ていきましょう”というふうに、キャッチボールをしながら取り組みました。教わるというよりは、価格や製造工程の見直しの伴走をしていただきました」と語る齋藤社長。
コロナ禍での販売数減少と資材高騰を受けて行動
1843年(天保14年)創業という老舗の麒麟山酒造。地域の人々に日々楽しんでもらえる酒造りをポリシーとし、2018年からは原材料の酒米も100%奥阿賀産を使用するなど、ローカルの酒蔵としての在り方を追求し続けている。デイリーユースであるレギュラー酒が販売の多くを占めていることが特徴であり、看板銘柄の「麒麟山 伝統辛口」や、「麒麟山 超辛口」などの普通酒比率が大きい。
いかに日常で親しまれているお酒であるかが分かる一方で、普通酒は単価が低く、利幅も小さい。日本酒の人気に陰りが見えた時代も数量を落としてこなかった麒麟山酒造にも、コロナ禍の影響に加え、エネルギー費やパッケージなどの包材費の高騰も迫ってきた。特に酒瓶は、全国で3社しかなかったメーカーのうち1社が撤退したことで、調達数量が足りなくなり、そこに価格上昇が重なるダブルパンチを受けた。
今後も「伝統辛口」を柱にしていくことに変わりはないが、そのためにはコスト上昇分の価格転嫁は必要になる。しかし、日常的に楽しんでいただくお酒だけにそれが簡単ではない、と齋藤社長は話す。「毎日食べている納豆や豆腐が100円から200円に値上がりしたら、消費者はこれまでと同じようには買えないと思います。「伝統辛口」はそういう商品で、ギフトなどにも使われる大吟醸酒が5,000円から6,000円になるのとは違う。値上げを簡単には受け入れていただけないだろう、という不安がありました。そこで、ある程度値上げをしたとしても、流通やその先の消費者の皆さんに理解していただきながら、しっかり利益を得られるような商品づくりや、仕組みづくりなどについて相談したいと思い、NICOの専門家派遣事業を活用しました」。
パッケージや製造工程など細部に至るまで見直し
同社では2023年11月から翌年2月までの期間でNICOの専門家派遣事業を活用。齋藤社長、営業部長、財務担当部長が専門家のアドバイスをもらいながら、社内全体の収益構造の見直しを進めていった。
見直し箇所を洗い出し、具体的な取組は担当部署で考えてもらった。「例えば、瓶のキャップはラベルに合わせて色を変えていましたが、黒に統一し、資材ロスを減らしました。ラベルもデザインは変えないけれど、印刷の方法を変えるなど、細かいところを一つ一つ見直しています。ただ、それでも追いつかないくらい、エネルギーや瓶代の価格上昇は影響が大きいですね」。
製造ラインについても、これまでは個別の状況に応じて瓶詰めを行っていたが、ある程度はまとめて行うことで効率を上げるようにしている。そのほか、広報はSNSを活用するように変更、社員が自分の仕事に集中できるように来客対応などにも見直しの幅を広げている。「専門家の先生と話す中で、こんなに細かい部分まで見直すのか、という気づきもありましたし、一旦やってみると、社員たちも自発的に見直す部分を探せるようになってきました」。
麒麟山 伝統辛口
すっきりとドライな飲み口の定番酒。2021年にパッケージをリニューアル。販売の工夫として、居酒屋向けに提案した、伝統辛口の炭酸割り「麒麟山サワー」は全国約300店舗で提供されている。
麒麟山 ながれぼし
高価格帯商品の販売拡大策として取り組んだのが、人気の純米大吟醸酒「ながれぼし」の少量サイズ(300ml瓶)の投入。土産物店や飲食店で評判を呼び、販売が好調だ。
価値を付けて選ばれる商品を生み出し続けられる体制に
今後の方向性については、まずは高価格帯の吟醸酒などの比率を伸ばしていくことが一つ。また、各商品の市場におけるポジショニングを確認し、“カジュアルで若い世代”など、更なるターゲットとして可能性がある層へのアプローチも今後進める計画だ。
また、ECサイトでの直接販売を少しずつ広げるほか、小さいながら直売所も今年4月からスタートさせた。「販売はあくまでも酒屋さんが中心という考えは変わりませんが、数量が少ない商品をオンラインや蔵での限定アイテムとして販売していく予定です。若手の蔵人の育成の意味も込めた、チャレンジ枠のお酒の企画も、そこで限定販売としてやっていきたいと思っています」。
社内では、今年2月末に丸1日を使って社員研修を開催。それぞれの商品を、どういう位置づけでどういうターゲットに販売していきたいのかといった部分を全員で確認した。「なぜ銘柄により瓶の色や形を変えて売っているのか、なぜこのイベントが必要なのか、なぜこの内容のポスターなのか、といったことを、目的を示してチャート図のように見える化して説明しました。一人ひとりの仕事が、こういう目的のためにやっているのだということを明確に伝えることで、社員の仕事への向き合い方も変わると感じます。これは言い続けていくことが大切だと思いますし、専門家の先生にも、言い続けなさいとアドバイスをいただきました」。
価格転嫁の話からスタートした相談だったが、組織の在り方も含めて多角的に指導をしていただいた、と振り返る齋藤社長。「原価だけを考えても解決しないというか、今後も原価は上がっていく可能性があるので、それ以上に価値を付けてお客様から選ばれる商品を作り続ける組織であることが大事だと、改めて確認する機会になりました」。
今年4月に「蔵直売所FUMOTO」をオープン。同時にデビューした純米大吟醸「麒麟山 歌枕」などの希少な蔵限定酒のほか、トートバッグ、手ぬぐいなどのオリジナルグッズも販売している。
酒造りは杜氏のもとで行われているが、今後は後進育成の意味も込め、若手蔵人による仕込みの限定酒づくりに取り組んでいく計画だ。
2011年から社内にアグリ事業部を設置し、自社でも酒米を生産。使用する原料米のすべてを奥阿賀産でまかなう酒造りは、麒麟山らしさが際立つ特長の一つ。
企業情報
麒麟山酒造株式会社
阿賀町津川46
TEL.0254-92-3511
URL https://kirinzan.co.jp/