値付け方法から見直し、適切な価格設定を実現。
収益管理によって次なる挑戦の基盤をつくる。
ワイヤー製品を中心とする金属加工を手掛ける中沢スポットは、原材料値上げにより従来の利益確保が難しい現状を踏まえ、後継者として4年前に入社した中沢取締役が「新潟県よろず支援拠点」に相談。原価管理や価格交渉についてのアドバイスを受け、根拠のある見積り作成など、収益管理に取り組んだ。

よろず支援拠点の相談は月1~2回、専門家が同社を訪問。3ヶ月に渡り課題に取り組んだ。「自社商品の価格設定について聞きたかったのですが、その前に自社の見積金額の把握が必要ということで、具体的な計算方法を教えてもらえたのが良かったです。よろず支援拠点は、こちらの課題に合わせてマンツーマンで指導していただけるのがいいですね」。
確実な根拠を持って価格を設定する方法を知りたい
1989年創業の中沢スポットは、“線材”と呼ばれる細い棒状の金属材料を用いた加工を得意とするメーカー。金属が重なる部分に圧力をかけながら電流を流して溶接する「スポット溶接」を中心に、プレスやベンダー加工にも対応し、とくに外装に使われる構造物など大型の製品を生産できることを強みとしている。

スポット溶接を主体に、プレス加工、ベンダー加工などさまざまな金属素材の成型加工を社内で完結できる体制を確立。ビルの壁面に植物を絡ませるステンレスメッシュパネルといった、大型の製品を得意としている。
同社はこれまで顧客からの材料支給による受注が多かったが、徐々に材料を自社調達に切り替えてほしいという依頼が増加。近年は原材料の値上げもあり、売上は同じでも従来の値付方法では利益の確保が難しい案件も出てきた。「私は2020年に入社したのですが、社長である父が見積りから現場の段取り、仕事までこなしていたので、以前の見積りを見直す時間もなく、10年前と同じ価格のまま続けている仕事もありました。ただ社長も70代になり、代替わりのことも考えて、私が見積り作成を引き継ぐことになりました」。
それまで工程単価や見積りなどは社長がノートに記録し、管理していたが、作業の効率化を考え2023年に生産管理ソフトを導入。中沢取締役が社長の記録を基に現時点での工程単価をソフトに入力し、1日の工賃を計算していったが、設定した目標金額に、日報を集計した金額が達していない日が続くことがあった。
「これまで目標金額の設定だけでなく、“今までこうしてきたから”という理由で製品の価格も付けられていたので、私は確実な根拠を持って価格を設定する方法が知りたいと思いました。また、自社商品の展開もしていきたいと考えていたため、どのような手順で価格を設定すればいいのか専門家の方に聞きたいと思い、よろず支援拠点に相談することにしたのです」。
2023年に国のIT補助金を活用し、生産管理ソフトを導入。日報集計を基に1日の工賃を正確に集計するようになったことで、従来の見積り作成や価格設定についての課題が見えてきたという。
コストと値付け方法を見直し。
交渉の実践的なアドバイスも
当初は新しく作る商品の価格設定方法についての相談が目的だったが、よろず支援拠点のコーディネーター(専門家)とのヒアリングを通して見えてきたのが、財務諸表から得られる情報だけでは利益管理が上手くできないという課題だった。そこで専門家が管理上の変動費、固定費の考え方と財務諸表の項目とを照らし合わせる必要性について説明。個別原価の考え方、市場や顧客の分析を行い、それらと照らし合わせた上で値付けや見積り作成を行うことについてアドバイスした。
「当社がどれだけ稼げば収益がマイナスにならないのか、最低ラインの金額を知ることから始めようと言われ、毎月の現金の流れが分かる資料と財務諸表を基に最低ラインの金額を導き出す方法を教わりました」。さらに、価格交渉に臨む際の実践的なテクニックについてもアドバイスされたという。「今までは希望する見積り金額を1パターンしか用意していませんでしたが、取引先から価格交渉された場合を考えたパターンの金額を用意して交渉するようになりました。最低金額の算出方法が分かり、ここまでなら価格を下げられるという把握ができるようになったことが大きいと思います」。
また、人件費の見積りによって、決めた工程日数、生産数を守るといった工程管理への自覚もあらためて芽生えたという。「例えば1時間で10個製品ができる計算をしていて、5個だった場合、これまでは“理想に届かなかった”で終わっていましたが、どうすれば10個にできるかを考えるようになりました。そうすると材料の移動や作業準備に時間がかかっている原因が見えてきて、工場内をスムーズに移動できるように整理整頓し、製造効率を上げる治具を自社で作るなど、改善につなげられるようになりました」。

専門家からのアドバイスを受け、各製品ごとに目標とする生産量、工程期間を決定。製造する上で発生する固定費、変動費などのコスト、個別原価などを把握し、目標数に達しない場合は原因を検証して改善につなげている。
値上げや再見積りも実現。
適切な価格設定に自信が
原価管理の手法や見積り作成のポイントを学び、実際に得意先との価格交渉を行った結果、ほぼ値上げに応じてもらえているという。「3年前に受注した仕事を再度依頼された場合、以前は“前と同じ金額で”と言われたら仕方ないと考えていましたが、今は材料費や光熱費の高騰もあるので再見積りをさせてほしいとお願いできるようになりました。お客様から価格について細かく聞かれることはなくても、“根拠があって、この価格”という確信が自分の中にあることで、自信を持って価格交渉ができるようになったことが一番の変化だと思います」。
原価把握による利益管理が可能になり、今後は自社商品の価格設定に関してもスムーズな展開が期待される。「これから価格交渉の経験を積み、自社商品を展開していく際には当社だけでなく得意先にも、そして買ってくれるお客様にも、社会に対しても、適切な値段を付けられるようになりたいですし、その力をもっと養っていきたいと思います」。
今後も既存事業の拡大を図りながら、自社商品の開発・販売という新たな夢に挑戦していく。
企業情報
株式会社中沢スポット
三条市中新8-10
TEL.0256-39-3328
URL https://www.nakazawa-spot.co.jp