金属3Dプリンタを活用した
三次元構造体の製造可能性を探る
金属の薄板を原子レベルで一体化する「拡散接合技術」を手掛けるWELCON。
その技術で機械加工では不可能な三次元構造体を製造する同社にとって、金属3Dプリンタは競合技術であるとともに、技術をレベルアップさせるヒントが見つかる期待もある。造形トライアルを通じて見えてきた可能性等について伺った。
技術部長 齋藤 隆 氏
開発課 田村 勝義 氏
もともと自分たちで3D-CADによる設計や三次元構造物の内部解析などを手掛けていたことが、今回の金属3Dプリンタで作製したものとの差異などを見つけやすい下地になりました。この挑戦が自社製造技術における新しい知見や改善点を見つけるきっかけになるのではないかと思います。
(写真左から、齋藤技術部長、鈴木社長、田村氏)
金属3Dの知見を持つことで
これからの方向性が見えてくる
熱交換器や冷却装置などを中心に、拡散接合技術で製造する微細な三次元構造体の部品が採用されているWELCON。2019年に新潟県工業技術総合研究所に金属3Dプリンタが導入されるとともに、NICOの次世代デジタルものづくり研究会の案内を受け、分科会への参加を決めた。
齋藤技術部長は、「当社では以前から樹脂の3Dプリンタを活用していて、精密なものづくりができるという感触を得ていました。我々の拡散接合技術は薄い板を積層して形成するのですが、金属3D積層造形はそれと似た技術であり、これを当社の技術とうまく組み合わせ、技術の向上に使えるのではないかという期待もあり、参加を決めました」と説明する。
鈴木社長も「3Dプリンタはある意味では当社の競合技術になりかねないのですが、その優れている部分と我々が行っていることとの比較をすることが大事ですし、良いところがあれば採り入れることも考えられる。そのため、金属3Dプリンタが現時点でどこまでできるのか知見が得られれば、今後の技術開発等の構想につなげられると考えています」と話す。
分科会には開発課の田村氏が参加。「分科会もセミナーも、非常に面白い内容なので、そこで得た情報を私のレポートとして社内共有し、次回の分科会参加希望者を募るなど、社員みんなで関心を持ちながら、新しいものに目を向けていこうという気持ちで取り組んでいます」(田村氏)。
内部に細い流路構造を持つ
熱交換器部品をトライアル造形
WELCONは今回、内部に細く複雑な流路がある熱交換器にチャレンジした。微細な構造に向くパウダーベッド方式での造形装置が必要となったが、NICOのネットワークを活かし、装置を保有し、高いノウハウを有する岩手県工業技術センターの協力が得られた。WELCONから示したテーマに対し、実際にどの程度の細い穴が造形できるか事前トライを行ったところ、一辺1mm程度の断面ならば途中でふさがることがない流路が作れることが分かった。
本番の造形では、流路をより精緻に形成しやすいよう、立方体の造形モデルをあえて傾斜させて造形した。様々な工夫を凝らしても、造形物の流路壁面に雫型の凹凸ができたり、穴の形も凧型に変形した。これらは積層する向きや穴の方向といった設計と造形ノウハウに影響を受けることが分かった。「今回はまず小さい穴径の流路が作れるかという段階から、穴の向きは積層方向に対してどう走らせるべきかといった細かい部分まで、いろいろ見えてくることがあり、大きな収穫がありました」(齋藤部長)。
流路壁面の凹凸が大きいと流れに影響があるため、中野科学(燕市)に内面研磨を依頼。同社が強みとする電解研磨技術により壁面の凹凸が緩和され、圧力損失が約8%改善される成果が得られた。また、新潟県工業技術総合研究所のX線CT測定装置により、内部形状の透視・画像化が可能であり、非常に緻密な構造を確認できた。切断した断面観察でも欠陥はごく僅かで、引張試験の結果から従来の材料と同等の強度を持っていることも分かった。
百聞は一見に如かず
造形手法の組み合わせにも挑戦
田村氏は「日本は3D技術を活用したものづくりに関して欧米や中国に後れを取っていることを知り、プレッシャーを感じる中、実際に設計から造形、後加工、評価と一連の工程を体験した結果、造形物の特徴をたくさん知ることができました。その意味ではまさに『百聞は一見に如かず』で、今後も経験を重ねることで、技術の応用や使い分けが見えてくると感じます」と話す。
同社では引き続き、分科会に参加し、パウダーベッド方式で作ったパーツにDEDで異なる形状を加えるなど、手法を複数組み合わせることも検討している。「将来的な可能性としてこの技術では、当社が拡散接合で作ったものに別構造のパーツを追加することができるようになる。その可能性を感じながら次につなげたいと思っています」(齋藤部長)。
造形物の評価を社内で行ったことで、多くの社員が造形物を実際に見て、触れることができた。「我々が従来から行っている三次元造形に対して何が違うのか、どこまでできるのか、社員が肌で感じることができて、金属3D積層造形が今までより身近なものとして考えられるようになりました」と話す鈴木社長。今後も、粉体を用いた金属材料開発やものづくりの分野がどのような方向に進んでいくのか注視し、会社全体の金属3Dプリンタへの知見を高めていく考えだ。
パウダーベッド方式による熱交換器の造形トライアル
■ 造形方向・形状
■ 内部形状評価
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