世の中にない商品を生み出し、地元の雇用を創出する
無菌人工給餌周年養蚕システムの事業化は、松原教授の研究室での活動を大規模な工業生産に転換する点でリスクもありましたが、その優れた機能から、バイオテクノロジーや医薬品の面で多くの人の役に立つと確信し事業化を決意しました。
無菌状態で蚕を飼育
食品や医薬品の原材料に
1988年に設立したきものブレインは、きもの着用後の丸洗いやしみ抜きなどのアフターケアを事業化。撥水防汚加工など着物に必要なさまざまな加工をワンストップサービスで請け負い、全国の呉服店に知られるようになった。しかし、きもの産業は徐々に縮小。本社を構える「きものの街」十日町も人口減少や高齢化の課題を抱えていた。
「何とか新たな産業を創出し、若い人の雇用や将来につながる生業をつくりたいと思いました。模索する中でご縁をいただいたのが、京都工芸繊維大学の松原藤好名誉教授です。松原教授は35年かけて『無菌人工給餌周年養蚕システム』を作り上げていました」と岡元代表。これは昔ながらの養蚕とは全く違うやり方で、無菌状態で蚕を育てることで菌やウイルスが付く心配がない。そのため医薬品や食品の原材料にも安心して使用できる。この養蚕システムに将来性を見出した岡元代表はNICOに相談。そこで紹介されたのがサポイン事業※だった。「経済産業省への申請の仕方、事業の構築の仕方など一つ一つご指導いただきました。経済産業省とのパイプづくりの面でも力強い支援をいただきました」と振り返る。
※サポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業):経済産業省による補助事業。サポインはサポーティング・インダストリーの略。中小企業が大学などと連携して行う研究開発や試作品開発などを支援する。2022年度より「Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)」。
きものブレインはそれまで業界になかった「着物のアフターケア」を事業化した。創業以来、新事業への挑戦を続けている。
研究開発で生まれたみどり繭・発酵シルクを商品化
無菌養蚕システムの研究を進めると、通常の白い繭よりも優れた機能を持つ「みどり繭」に出会った。細胞の老化を防ぐ抗酸化作用のあるフラボノイドを含有し、健康や美容への高い効果を持つことが判明。その後、東京農業大学の長島孝行教授(現在はヤマザキ動物看護大学に在籍)とも連携し、みどり繭を使用した全身シャンプーや化粧品シリーズを開発。ライフスタイルブランド「絹生活研究所」が展開するアイテムは敏感肌やアトピーに悩む人にも喜ばれ、リピーターも多い人気商品となった。
県内外大学機関と研究開発を進めながら新しい挑戦を続けている。みどり繭の繭だけではなく、蛹(さなぎ)も活用し、冬虫夏草や医薬品原材料への利用が進んでいる。また、シルク成分と植物性乳酸菌を合わせた「発酵シルク」の商品開発も進む。「無菌状態だからこそ安心して使用できます。2024年の商品化に向けて最終的な準備を進めている段階です」と岡元代表は力を込める。発酵シルクは、健康食品分野では腸内常在菌の活性化が、化粧品分野では肌の保湿や傷んだ肌の修復、抗酸化作用が期待できるという。今後の展開にぜひ注目したい。
研究開発でたどり着いた「みどり繭」。肌の老化を防ぐ抗酸化作用に優れたフラボノイドや、美容成分セリシンを白い繭よりも多く含む。大学の研究室と連携することで徹底した品質試験を行うことができ、高い機能を持つ商品が生まれた。
「みどり繭の力で人々の美と健康を守る」をコンセプトに立ち上げた自社ブランド「絹生活研究所」。化粧品、タオルや肌着などのファブリック、サプリメントなどを開発。
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株式会社きものブレイン
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