株式会社淵本鋼機

2021年06月01日
IT導入NICOpress176号

DXの先にイメージするのは
組織として一体感を持ち

サービスを提供する企業

切削工具に特化した機械工具専門商社である淵本鋼機では、2017年から顧客管理機能を核としたクラウド型ビジネスアプリケーションを導入し、業務のIT化を推進。休眠顧客の掘り起こしや展示会への誘客だけでなく、社内連携もスムーズになるなど、さまざまな変化が生まれ始めている。

代表取締役社長 淵本 友隆 氏

「我々もまだ、システム全てを使いこなせてはいないのですが、徐々に社員が工夫するようになってきて、今後は自走していってほしいと思います。注意しなければいけないのは、機能を使うことが目的にならないようにすること。コストもかかるだけに、何のために使うのか、ということを意識しなければいけないと感じます」と話す淵本社長。

休眠顧客という課題をきっかけに
業務のIT化を開始

創業から72年目を迎えた長岡市にある淵本鋼機。機械工具専門の商社として、地域の製造業を支える存在だ。同社では2017年からクラウド型の顧客管理ソリューションである「セールスフォース」を導入し、顧客管理や全社員間の業務連絡、営業資料制作などのデジタル化を進めている。
淵本社長がIT導入の決断をした理由のひとつは、約1,000社ある取引先のなかで休眠顧客が300社に上っていたこと。「社内では顧客情報の管理が進まず、担当が変わるときも引き継ぐ資料が無いような状態で、休眠顧客はその結果として現れたもの。知らず知らずのうちに起きている機会損失を防ぐためには、まずしっかりとした顧客管理の環境を整備しなければ、というのが始まりでした」。
当初は出来るだけ自社でやろうと、エクセルを使って顧客情報の整理を試みたが、入力に手間がかかり、続かない。「やはり、コストはかかっても、システムを導入しなければだめだと判断しました。また、一部にシステムを入れても全ての業務で連携できないとストレスになり、結果的に活用できなくなる。そこで、顧客管理システムをベースとして、カスタマイズもできるセールスフォースを選びました」。

顧客情報の管理
セールスフォースは顧客情報や社内情報をクラウド上で共有するシステム。大手企業で導入されている印象だが、中小企業にも導入事例が多く、経営者の考えに沿ってシステムの提案をしてもらえるという。

 

スモールスタートで全社員が
足並みを揃えてデジタル化へ

ポイントはスモールスタートにするということ。社員全員がデジタルツールを使えてこそ、効果が発揮されると判断したからだ。「社員は年齢もデジタルスキルもさまざまで、導入への拒絶反応は必ずある。そこで一気にやろうとせず、社員全員がやれるところから始め、慣れたら次のステップへ、というふうに進めました」。また、働き方改革で18時30分に全員退社という目標を実行するためにも、デジタル導入で効率化を図ることが不可欠だ、というメッセージも社員に納得してもらう要因になったという。
最初に取り組んだのは顧客情報の整備。営業が毎日書く日報の内容が、そのまま顧客情報として蓄積されるシステムを導入した。日報はこれまでも書いていたので、営業にとっては業務が増える訳ではない。かつ、クラウドシステムなので、社外にいても隙間時間にタブレットを使って入力することができるようになった。
約半年後、次は社内SNS機能(Chatter)を導入。資料送付などもSNSに切り替えた。「メリットは連絡に対するアクションが早くなること。また、営業所の拠点間で情報共有やコミュニケーションが活発になったことが大きいですね。各拠点の営業案件や、メーカーの情報を全員で共有しています。これによって社内には、これまでとは違う一体感が出来てきたと感じます」。
情報共有によって、内勤の社員にも営業の動きが見える。それを見て、例えば経理から“ここで収支のタイミングがずれる可能性があります”といったフォローを入れることができ、財務戦略にもつながった。

社内SNS機能(Chatter)によって、離れている拠点間でのコミュニケーションも活発化したという。

 

営業担当者は以前から支給されていたタブレットを使うことで、デスクに戻らなくてもさまざまな業務をこなすことができるようになった。

 

淵本鋼機はあらゆる切削工具に精通し、製造工程を把握して最適なプランを提案している。将来はお客様が発注履歴をもとにネット発注ができるしくみや、在庫数管理もシステム化していきたいとしている。

 

システム導入後は売上増
ここから社員主導のフェーズに

数字として効果が出たのが、展示会への来場者数だ。顧客情報を基にメール配信機能を使い、2ヵ月前から週1回ペースで案内を送りながらフォローしていったところ、2019年の来場者数は前年の330名から507名に増加した。また、システム導入以降は売り上げも過去最大を記録。「景気の影響もありますが、ファクターのひとつにはなったと思っています」。
そして、現在トライしているのが、商談データを見える化する機能だ。「営業の達成率や実績推移などを自動的にグラフや表にしてくれるので、営業が自分で資料を作成する必要がなくなりました。本格導入から3年が経ち、現場感覚を持った人間がアレンジをしていくフェーズに入っていくと思うので、ここからは社員に動かしていってもらおうと思っています」。
淵本社長がDXの先にイメージするのは、組織としてお客様に対応できる企業文化を持った会社だ。「お客様の情報を全社員で共有し、展示会で担当者以外の社員が対応しても“あの注文ありがとうございました”とお話しできると良い。さらに言えば、災害で事業所のひとつが停止しても、別の事業所で仕事を引き継げるというのが理想ですね」。また、同社の営業はコンサルティング的な色が強いことから、業務の効率化によって社員がプランを考え、勉強するインプットの時間を増やすことで、提案力を高めていけるというのも狙いのひとつだ。
DXへの取り組みは、まだ1合目を過ぎたあたりと話す淵本社長。「デジタルは時間をかけないと浸透しないからこそ、出来る限り早く最初の一歩を踏み出して、ゼロからイチを作ることが重要だと感じます。忍耐も必要ですが、踏み出せばその次が見えてくると思います」。

毎年春に開催している自社主催の展示会「プロダクティブフェア」。メール配信の効果で来場者が増えたほか、会場で行う体験会の参加者も2019年は過去最高人数となった。

 

ポイント

  • 情報は全業務で連携してこそ効果を発揮するため、システム選びは慎重に行う
  • 機能を使うことが目的にならないよう、常に何のために使うかを意識する
  • DXは時間がかかるからこそ、ゼロからの一歩をできるだけ早く踏み出す

 

企業情報

株式会社淵本鋼機

〒940-0046 長岡市四郎丸4-7-12
TEL.0258-35-1313
FAX.0258-33-2447
URL http://www.fuchimoto.co.jp/

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