野草・漢方のルーツから素材の組み合わせを楽しむ
個性派クラフトジンをリリース
上越市にある健康食品メーカーの越後薬草は、蒸留酒ブランド「YASO」を立ち上げ、2020年2月からスピリッツとジンを販売。長年培ってきた野草・漢方の知識と、女性にアピールするブランディングから生まれたオリジナル度の高いクラフトジンが注目を集めている。

「ジンはジュニパーベリーさえ入っていれば、あとは自由というのが面白い。お酒は嗜好品だからこそ、自由な発想で楽しく作っていきたいですね。YASOでは素材のボタニカルの香りが立って、アロマを楽しんでいただくジンを作りたい。飲む香水というイメージです。今後はサブスクリプションの企画もやってみたい」と話す塚田代表。
窮地をポジティブに変換した
YASOブランドの立ち上げ
越後薬草は1976年の創業以来、ヨモギを中心とした野草を発酵させて作る健康酵素商品のメーカーとして歩んできた。同社では、製造過程で発生するアルコールに着目し、新規事業として焼酎を作る目的で、2018年に減圧式蒸留器を導入。「その矢先に、事業を進めていた先代社長が急逝し、しかも、早急に酒造免許を取得しなければ通常業務も進められない事態になってしまいました。蒸留酒の免許は年間6キロリットルを製造する必要があり、取得条件が厳しい。時間もなく、大ピンチでしたね」と塚田代表は振り返る。 まずはアルコール原材料として他社に販売しようと考え、全国各地のメーカーに交渉したが、全く受け入れてもらえなかった。「猶予期間が迫り、最後のアタック先にも断られた帰り道、“売れ”という先代の声が聞こえた気がしたんです。そこで『ネガティブな悩みは、売上を立てるというポジティブな悩みに変換しよう』と思考が切り替わり、同行していた社員に“ジンを作る”と宣言していました」。 ジンはベースとなるスピリッツに、ジュニパーベリーを始めとする薬草・香草を加えて作るお酒。野草から商品を生み出している同社にとって、ルーツも近い。また、日本国内でクラフトジンが注目を集めていた時期でありタイミングも良いと判断し、社内ベンチャー的にプロジェクトはスタートした。
“透明感”“アロマ”をコンセプトに
希少性とオリジナリティを追求
ブランドは野草というワードと、スピリッツの原材料に80種類の植物を使っていることにかけて「YASO」と命名。香りを楽しむアロマ感、ジンならではの透明感、オーガニック材料という魅力、さらに糖質ゼロの健康志向などを踏まえ、ターゲットは女性に設定した。「お洒落なカフェに通う層に、夜はジンを楽しんでもらおうというイメージです」。 ジンの世界で非常に重要とされるボトルデザインは透明感を重視。80種類の原材料をイメージした80本のグリーンの線が描かれたデザインに仕上がった。ラベルに書かれている数字は、使用するハーブや野草の数を表している。 ジンはその年限定モデルのレギュラー商品と、不定期で発売されるリミテッドエディションを販売している。即日完売が続いているというレギュラージンは年間2,000本の限定生産にすることで、なかなか手に入らないという特別感を演出し、商品の価値を高めることに成功。リミテッドエディションは新潟の生産者とのコラボレーションにより生まれるもので、これまでに八色スイカや三条市産のウコンなどを原料に取り入れている。「素敵な生産者さんに出会って心が震えると、エディションを作りたいと思う。YASOを通して、そういう方々の存在を伝えることも仕事だと思っています」。 リミテッドエディションも同じく人気があり、こうした希少性は注目を集め、ブランド力を高める要素となっている。

80(YASO)スピリッツと、2021年のレギュラー商品80(YASO)ジン(131)。 ボトルデザインは新潟市のデザイン会社・フレームの石川氏に依頼。 日本パッケージデザイン賞2021でアルコール飲料部門で銅賞を受賞している。

2021年のYASOジンは県内産ハーブを使ったフレッシュ&ハーバルな香り。
51種類の野草を加え、合計131種の素材が使われている。
関わってくれる人を地域に増やしながら
上越から世界へYASOを発信したい
カクテルに使われることの多いジンは本来、バーなどの店舗における需要が多いが、昨年から今年は感染症の影響を受けている。しかし、インスタグラムなどを通してファンと距離の近いコミュニケーションを展開し、多くの個人客を誘引。女性をターゲットとすると、一定数お酒が苦手な人もいることから、クラフトコーラやトニックシロップなどのハーブやアロマを意識したノンアルコール商品もスタートし、こちらも好評だ。 また、昨年は蒸留所建設を目指して応援購入サイトMakuakeを活用し、400人余りのサポーターから525万円の支援を得た。来春にはゴミゼロの循環型蒸留所が完成する予定だ。蒸留所は見学者を受け入れ、現代アートや上越の景観も楽しめる空間としていく。「ろ過した残りかすである残渣を肥料にして畑に戻し、そこで農業者に無農薬でヨモギや薬草を育ててもらうというサイクルを確立したい。地域と密着して取り組むことで関わってくれる人が増えれば、商品への愛も増える。それを上越から世界へ発信したいと思っています」と塚田代表は話す。そのため、海外への販売を視野に現在、輸出の代理店を探している。世界中のバーにYASOが置いてあるというのが、同社が目指す最終目標だという。 そして、このプロジェクトは何よりも従業員のために進めていく価値があるという。「当社は社員の平均年齢が若いのですが、これから上越で暮らしていくなかで彼らが誇れて、若い人が活躍できる職場でありたい。次は何が起こるのかという期待を持ってもらえるようにやっていきたいと思っています」。


ブレンドやテイスティングを研究するラボは、バーをイメージしてカウンターを設置したお洒落な空間。


「野草酵素」はヨモギを中心に地場の野草、薬草と酵母菌などを合わせ、甕の中で自然発酵させて作られている。アルコール分はその発酵過程で発生。これまで多くの野草や薬草に携わってきた経験が、クラフトジンの素材選びに生かされている。
企業情報
株式会社越後薬草
〒942-0055 上越市小猿屋73
TEL.025-544-3050
FAX.025-544-3074
URL https://yaso80gin.jp/
80(YASO)ジン 6,380円