飲食店から食品製造業へ。
支援を積極利用し業務体制を整備
新潟市で20年近く営業を続けたレストランが、新型コロナウイルスの影響により閉店を余儀なくされた。しかし、様々な支援を活用し、食品製造業に業種を変えて再始動。「新潟のおいしいものを多くの人に届けたい」という変わらない思いと、挑み続ける行動力が、業種転換を成功させるエネルギーとなっている。
食の専門雑誌『料理王国』の掲載は、NICOさんのメルマガで「100選」の情報を知り応募しました。料理人になって以来ほぼ毎号愛読していた憧れの雑誌から、パエリアキットを「100選」に選んでいただいて光栄です。多くの方に喜んでいただけるよう、調理のしやすさなど工夫と改良を重ねていきたいです。
新型コロナウイルス禍対策として2業種並行を試みる
2003年から新潟市中央区に店を構える地中海料理の店「ティオペぺ」。新潟の魚介と野菜たっぷりの特製パエリアが人気の店だ。「お店に来られない人にもこの味を届けたい」と、2019年頃から家庭で調理できる冷凍商品の開発をスタート。2020年夏に「新潟パエリアキット」として商品化した。同じ頃、感染症の拡大で飲食の客が減少し、売上は7割減まで落ち込んだ。パエリアキット販売が動き出していたため、まずは飲食業と食品製造業の同時並行を試みた。しかし利益を支えていたディナーや宴会の客足は戻らず、2021年に惜しまれつつも閉店。本格的に食品製造業に移行することとなった。
ティオぺぺのこだわりの一つは食材だ。朝獲れた佐渡産の魚介が夕方には厨房に届き、無農薬を中心とする野菜も新鮮なまま配達されるルートを持つ。「本当にいいものを食べてほしい」という思いで作られる料理でファンを増やしてきた。「食材の原価はかかるが、そこを削るわけにはいかない。生産者とのつながりを大切に、新潟の食材の素晴らしさを発信し続けたい」。その思いも業種転換の後押しとなった。
ティオぺぺ特製「新潟パエリアキット」
お店の味を全国どこへでも届けられるように冷凍商品で展開。味の決め手はスープ。佐渡産の本ズワイガニや南蛮エビなどの魚介、野菜、鶏肉を炒めて3日間かけてだしを取る。具材も新潟産の食材がたっぷり。米は自然栽培米。フライパンで気軽に調理できる。
管理体制を徹底するために「製造所」を新設
「製造業に移行できたのは多くの支援者のおかげです。いつも困った時に相談していたNICOさんの専門家派遣事業を活用し、飲食業と食品製造業の違いを一からレクチャーしてもらいました」とオーナーシェフの渡辺代表。食品製造業は広く製品が流通することから、製造において冷蔵庫の温度管理、食材の在庫管理、調理場の衛生管理など、厳しい管理体制が求められるが、従来の厨房では難しい部分もあり、小さくても製造所を新たに設ける必要があった。
そんな時、古町通3番町にある築百年の長屋を、複合施設「SAN」として企業やショップが入る施設にリノベーションするという計画を耳にする。施設の仕掛け人とはパエリアキットのパッケージデザインを依頼したつながりもあって話が進み、「SAN」内のキッチンスペースを利用し、「新潟食材研究所 ティオペぺ」として2021年12月に再スタートを切った。
高く評価されたパエリアキット
取引先の新規開拓も
一方「新潟パエリアキット」は2020年の発売以来、飛び込みで小売店に交渉するなど取扱店を増やし、自社ECサイトやナチュレ片山等で評判となっていた。2022年には雑誌『料理王国』が開催する品評会「料理王国100選」に選ばれる快挙を達成。本格的な味、見た目の華やかさ、時代に合ったパッケージデザインの3拍子揃った商品は贈答用に重宝され、小田急百貨店や髙島屋のギフトカタログにも採用された。
百貨店のカタログには、パエリアキットに加えて「佐渡産黒あわびのやわらか蒸し」も掲載。価格は300グラム入り12,960円(税込)。「高すぎて売れるわけがない」と周囲から言われたが、渡辺代表は前々から新潟の食を全国に発信する必要性を強く感じていた。「新潟にはそれぐらいいいものがあります。しっかりと価値をつけ、表現して打ち出していかなければ」。
さらなる取引先拡大を目指して、来年2月には幕張メッセで行われるスーパーマケット・トレードショーにNICOブースでの共同出展も予定している。また、パエリアキットに続き「新潟やさいたっぷりの体にやさしいすーぷ」を発売。新潟産の野菜のおいしさを味わってもらうために、大きくカットした具材がスープとは別に真空パックされている。こちらも贈答用に人気の商品だ。
ゴロゴロ野菜の食感がポイント。添加物や保存料を使わずにおいしさをキープするため、アルコールに浸ける最新の急速冷凍機を導入。モニター調査を踏まえたレシピ改良など半年ほど試行錯誤し、具材の食感と味わいを存分に楽しめるスープが完成した。
業種転換により新たなプロジェクトもスタート
新たな挑戦で特に大きく変化したことは「対『人』ではなくなったこと」だという。「残念ながら、料理を味わった人の感想を直接に聞く機会は減りました。その分、お客様の顔が見えるイベントに出店しています」。SNS、ブログ、ニュースレターといったコミュニケーションツールも積極的に活用し、こまめな発信でファンを増やしている。
「新潟のおいしいものを広く届けたい。その思いは、これまでもこれからも変わらない。食品会社からの依頼で商品開発に協力するなど、新たな取引も生まれています。今後も新潟の企業や個人の方々とつながりながら、様々な商品を生み出していきたいです」。再スタートを切ったティオぺぺ。人の笑顔や幸せにつながるおいしさを発信すべく、パワフルに進み続ける。
企業情報
新潟食材研究所 ティオペペ
新潟市中央区古町通3番町653 上古町の百年長屋SAN内
TEL.025-225-6677
URL http://www.tiopepe-niigata.com/