株式会社イシイ精機【災害に強い企業体制の構築|有事に備えて2拠点化。緊急時も事業を停めないBCPへ】

2024年04月18日
NICOpress193号新商品・新技術開発補助金

有事に備えて2拠点化。緊急時も事業を停めないBCPへ

横浜市に本社があるジグ研削加工を手掛けるイシイ精機は、2011年に胎内市に新潟工場を開設し、2拠点体制で生産を行う。きっかけは2007年に起きた新潟県中越沖地震。有事を想定しての対策は、企業規模に関係なく真剣に取り組まなければいけない重要事項であるという堺代表の姿勢があった。

代表取締役 堺  裕之 氏
代表取締役 堺 裕之 氏

「もしも被災したら、対策をやっておけばときっと後悔する。十分ではなくとも、前もって準備していたから被害はこれだけで済んだ、と思えることが必要です。こうした事例特集を見て、響いてくれる会社さんが多くなるといいなと私も思います」と話す堺代表。

災害が起きたら会社はどうなる
きっかけは地震による影響

金属加工業のなかでもニッチとされる「ジグ研削加工」で、ミクロン単位の精密加工技術を持つイシイ精機。「イシイ精機といえばジグ研 ジグ研といえばイシイ精機」のフレーズのもと、自動車関連から医療用、食品分野などの超高精度の金型製作などを手がけている。社員は14人と少数精鋭の会社だ。同社ではBCP(事業継続計画)を自社で確立し、2011年からは新潟工場を稼働。お客様、協力会社、そして社員など、会社に関わる全ての人が幸せであることを重視しての行動だったと堺代表は話す。

「関東での大地震はいつか必ず起きる、その時にどう行動すればいいのか」。それを強く考えさせられたのが2007年の新潟県中越沖地震の発生だった。「新潟の自動車部品工場が被害を受けて部品供給ができず、全国の自動車製造ラインが1週間ほど停止しました。あの時は各自動車会社が応援を出して復旧していましたが、我々のような町工場は、単独では立て直しが効かない。そうなったら社員は路頭に迷いますし、倒産となれば自分や家族の生活も危ぶまれる。何よりお客様に迷惑をかけます。工場の耐震、免震も考えましたが、我々の工作機械はとにかく揺れに弱い。地震が来たら諦めるしかないのかと考えていたところ、生産設備を分けることを思いつきました」と堺代表は振り返る。

工場の候補先を東北方面とし、探し始めて約2年後の2010年、中古で売りに出ていた測定機を購入するために胎内市の工場を訪れた。堅牢な造りで入居企業もいなかったことから、そこを借りることを決意。竣工したのは2011年12月。東日本大震災が発生した年の暮れだった。

ジグ研削盤を用いた金型

ジグ研削盤を用いて1000分の1㎜単位での削りを行う。超高精度かつ耐久性を求められる自動車関連、医療用、食品用金型などにニーズがある。

真剣に作業を行う株式会社イシイ精機の社員

 

火花を散らしながら1000分の1㎜単位での削りを行う金型

 

 

地方に新たな工場を持ったことで
想像していなかった副産物が

生産拠点が2か所になり、緊急時でも事業を停止することなく対応できるという強みは、イシイ精機にとって大きなアピールポイントになっている。更に、新潟工場を持ったことで、想像していなかった副産物も生まれてきたという。

1つ目は横浜工場では広さが限界だったが、新潟工場が出来たことで機械を増やすことが可能になり、キャパシティが増えた。2つ目は、関東では難しい若手の人材獲得が、新潟では容易であるということ。3つ目は、新潟近隣の新規顧客が増加。「お客様にとっては品物を送るなら近い方がいい、ということで東北方面の仕事が新潟工場に入るようになりましたし、近隣エリアで新しいお客様も開拓できました。収益化までに苦労もありましたが、ここ数年は新潟工場だけで収支が合うようになりました」。

同社はジグ研削に特化していることもあり、社内における技術の共有・教育がスムーズ。どのような依頼にも複数の技術者が対応できるというのも強みだ。さらに、同業種との連携も進めており、どんな時も仕事を停めない仕組みを構築している。

さらに、2023年度にはNICOの「データ利活用型設備導入支援事業」を活用し、「地震時緊急停止システム」を独自開発。これは地震が起きたときに工作機械や製品への影響を最小限に抑える「減災」の観点から取り組んだものだ。

 

株式会社イシイ精機 新潟工場

株式会社イシイ精機 本社・本社工場

 

横浜・新潟の2拠点体制で操業
各工場には100Vの電源バッテリーを設置。有事の際はまずそれを持って人命優先で避難所に向かうことにしている。東日本大震災後は天井クレーンの落下防止対策も行った。

CNC門型治具研削盤(横浜工場)、ジグ研削盤WAIDA UJG-35(新潟工場)、三次元座標測定機などの最新鋭設備。

CNC門型治具研削盤(横浜工場)、ジグ研削盤WAIDA UJG-35(新潟工場)、三次元座標測定機などの最新鋭設備。

 

CNC門型治具研削盤(横浜工場)、ジグ研削盤WAIDA UJG-35(新潟工場)、三次元座標測定機などの最新鋭設備。

CNC門型治具研削盤(横浜工場)、ジグ研削盤WAIDA UJG-35(新潟工場)、三次元座標測定機などの最新鋭設備。

 

CNC門型治具研削盤(横浜工場)、ジグ研削盤WAIDA UJG-35(新潟工場)、三次元座標測定機などの最新鋭設備を保有する。

 

夜間の地震で発生した事故案件から
緊急停止システムを独自開発

開発のきっかけは地震被害だった。「夜間は無人で自動加工を行っているのですが、ある時地震がきて機械が揺さぶられたことで、お客様の品物に傷がついてしまいました。自然災害とはいえ不良は不良ということで弁償が発生し、500万円を請求されました。これは当社からすると非常に高額な弁償です。話し合いで減額していただきましたが、それでも当社には大打撃でした。オペレーター担当に“あなたのせいじゃない”と話をしても、とても恐縮していて。その社員がふと“地震が起きたら自動的に止まる装置が付いていれば”とつぶやいたのを聞き、そこから2年がかりで開発しました」。

この装置は外販も考えている。「自動停止は高額な機械であれば付いている機能ですが、資金力のない中小企業にとって導入は大変。最初は自社で完結するつもりでしたが、他の会社さんでもニーズがあるのではと思い、いま販売会社への依頼を進めています」。

さらに、第2弾として、落雷などでわずかな時間起きる停電によってプログラムデータが飛んで機械が止まってしまう現象を防ぐ装置を開発中だ。「被害が少なくなるための準備・行動は、災害が来る前ならいくらでもできる。お金がかかるからやめておくのではなく、お金がかからないところから始めるべきですし、必要なところはお金をかけてでも真剣に準備することが大切です。前もってやれることをやっておけば、被害が半分で済むこともある。それでもお金がかかると二の足を踏むのが私たちのような町工場。そのため、外販する装置も安く提供できるようにしたいと思っています」。

みんなが幸せでいられるために考えていく、という堺代表の取組は、中小企業でも工夫と努力でBCP対応は可能であり、取り組むべきものであることを示してくれている。

株式会社イシイ精機BCP

HPを中心に「緊急時も停まらないイシイ精機」としてBCPを広く発信。

「ジグ研削エコシステム」の構築を目指すプロジェクト

イシイ精機では業界同士でサービスやプロダクトを連携する「ジグ研削エコシステム」の構築を目指すプロジェクトもスタート。技術交流、人材育成、DXの推進などを通じて業界全体の発展を目指す。有事の際にも有効となるはずだ。

 

ポイント

  • 想像力を働かせて工場が被災したらどうなるかを想定。解決策を探り、実行する。
  • 「有事にも仕事を停めない」という、事業の中核となる絶対的に必要な部分に資金を投入する。
  • 地震による事故の経験から製造業に共通の課題を見出し、自社で開発したシステムを外販化。

 

企業情報

株式会社イシイ精機

[本社]
横浜市都筑区川向町922-42
TEL.045-473-7141
[新潟工場]
胎内市清水9-141
TEL.0254-44-1515
URL https://www.jg-ishii.co.jp/

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