子育て世代や高齢者が抱える社会課題に向き合い
企業のネットワークで解決
「不動の心と志をもって、社会課題と真摯に向き合う」を指針に設立された不動軸は、子育て中の保護者支援のワーキングステーション開設や、高齢者の困りごと支援などの事業を展開。ワーキングステーションの取組は、ニイガタIDSデザインコンペティション2022の「IDS賞ソーシャル部門」において受賞。従業員のモチベーション向上にも寄与している。
「Co育てワーキングステーション長岡」は、子育て中のお母さんたちが集まり、話をするだけでなく、子育てや手仕事を共にしながら交流できるのが魅力です。仕事だけでなく、興味のある分野の勉強会を企画・開催したり、時折作っているお昼ご飯を、自分たちで食べるだけでなく、作業フロアを提供してくれている水澤電機の社員さんたちにも提供することを検討したりするなど、お母さんたちのアイデアで活動が広がっている点も素晴らしいと思います。(河内氏)
構想の原点は中越地震の
被災者支援施設から
社会や地域が抱える課題と向き合い、改善・解決するための事業に取り組む不動軸は2021年に設立され、長岡市の水澤電機社長・水澤元博氏が代表取締役を、中越防災安全推進機構の河内氏が取締役を務めている。「社会問題を解決する事業は継続の難しさが課題だと感じていました。そこで、ビジネスとして継続できる形で社会問題に取り組むという方針で水澤氏と共に不動軸を立ち上げたのです。その最初の取組が、ニイガタIDSデザインコンペティション(IDS)に応募した“Co育てワーキングステーション”と“べんりんがーな長岡”の取組でした」と河内取締役は語る。
2022年にスタートした「Co育てワーキングステーション長岡」は、主に未就学児の子育てをしている保護者を対象に、一緒に仕事をしながら子育てできる環境を提供することで、孤立の解消や就労機会の提供を図るという取組。この構想の原点は、中越地震の仮設住宅地に開設された「多世代交流館になニーナ」だった。「子どもを連れたお母さんたちが、そこで仕事をして活動できる非常にいい環境で、同じような取組を継続してできないかと考えたのです。その頃、私の妻も子育てで家に閉じこもることが多い状況で、いろいろな人と一緒に子育てできる場所が必要ではと思い、になニーナの元代表や水澤社長と相談し、始めることにしました」。
IDSでの受賞やメディアによる拡がりは
モチベーションにつながる
「Co育てワーキングステーション長岡」は、水澤電機が会社内の部屋を提供し、平日の10~14時に開設している。現在は18名の利用者が登録。訪れる日や仕事をする時間も自由で、子どもたちが遊ぶのを皆で見守りながら、同社が用意した銅線剥きや衣料品の検品などの内職作業を行う。「子どもが幼稚園や学校に行くようになっても来られる方もいますし、いきなり仕事に復帰するのは難しいと感じている方が、準備期間として来られることもあります」と話すように、再就職を目指す人のファーストステップの場にもなっている。
数カ月前から通う利用者の一人は、「ここに来ると自分と似たような環境の人たちと顔を合わせられるし、手も動かせるので気分転換になります。子どもも外に出られて喜んでいます」と話す。また、「好きな時に来られるし、子どもが夏休みや冬休みの時期は一緒に連れて来ることができるので、すごく助かります」と話す利用者も。ステーションの立ち上げから関わる河内沙苗さんは、「お子さんとこの場に来て、息抜きするだけでもいいと思います。私も子育て中は社会に役立てていないのではという感覚があったのですが、ここで多少でも収入を得ることで、社会に関わる感覚や自信にもつながります。ママたちが元気になっていく姿を見られるのも嬉しいです」と話す。
「IDSに応募したのも、賞を受賞することで働く方たちのモチベーションを上げたいと思ったからです」と河内取締役。2022年のIDSでは、「社会をより良くする商品やシステム、サービス」を表彰する「IDS賞ソーシャル部門(ソーシャル・バリュー賞)/新潟日報社賞」を受賞。IDSの審査員からは「“何年後かにしっかり事業が成り立っていることが大事。新しい広がりができたら、またIDSに応募してみては”という言葉をいただきました」と、事業の今後を期待する言葉もあったという。「受賞をきっかけに新潟日報が記事にしてくれたので、広報としての効果も大きかったと思います。最初の頃は口コミや知り合いの紹介で来られる方が多かったのですが、記事を見て参加するようになった方もいて、この何年かで裾野が広がってきています。また、県内の中小企業にこの取組を知ってもらい、賛同していただいたら私たちがノウハウを提供するなど、この事業が他でも広がっていけたらと考えています」。
Co育てワーキングステーション長岡
▶ニイガタIDSデザインコンペティション2022 IDS賞 ソーシャル部門(ソーシャル・バリュー賞/新潟日報社賞)
この日は4名の利用者がニット製品の検品作業を行っていた。他にも銅線の被覆から銅芯を出していく作業もある。自身の都合に合わせて利用する頻度、作業する時間を決められるため、気軽に利用できることが継続できるポイント。
ステーションの取りまとめ役を務める河内沙苗さん。「子育てに入ると自分のことよりも、全てが子ども中心になってしまいます。この場に来ることで子どもから少し離れ、自分の好きなことにも興味を持ってくれたら嬉しいです」。
作業フロアは、仕事中でも子どもを遊ばせたり、あやしたりできる。小学生が小さい子の面倒を見てくれることもあり、安心して過ごすことができる空間が生まれている。
平時から高齢者の困りごとに企業ネットワークで
対応できる体制を構築
もう一つの事業「べんりんがーな長岡」は、県の防災産業クラスター形成事業の中で発案された取組。長岡の異業種の企業がネットワークを組み、平時から高齢者の困りごとや相談にビジネスベースで対応できる体制を作っておくことで、災害が発生した時にも、高齢者が悩みを一人で抱え込まないような仕組みを構築した。「“サザエさん”に出てくる三河屋さんのように、地元の企業がご用聞きに伺い、困りごとに対して仮にその企業が対応できなくても、さまざまな企業が集まるネットワークがあれば、どこかに対応をつなげられるということで始めました」。
不動軸は「Co育てワーキングステーション長岡」「べんりんがーな長岡」ともに、事業の継続とさらなる広がりを目指している。「今後、外国籍の方や子育て中のシングルの方、一人暮らしのお年寄りなどが、お互い支え合えるような場所、シェアハウスのようなものができればという話は出ています。なかなか難しいとは思いますが、ちょっとした助けが必要な人たちと支える人たちのコミュニティを築いていけると面白いですね」。多様な人々が支え合う仕組みをどのように構築していくのか、同社のこれからの挑戦に注目していきたい。
企業情報
有限会社不動軸
長岡市新産2-3-1
URL https://fudojiku.com/