食品ロスを発酵でアップサイクル。
伝統の食文化を未来に繋ぐ
長岡市にある4社が立ち上げた「越後ど発酵」共同プロジェクトでは、食品に携わる会社としての責任感のもと、廃棄していたものを発酵の力で新たな価値ある商品に生まれ変わらせた。おいしく食べてもらうことを通して、食品ロスの問題や、長岡で大切にされてきた発酵食文化を知ってもらいたいと活動している。
(株式会社プラントフォーム)遠﨑 英史 氏
プロジェクト名やロゴマークは、“発酵”を強調するようにしたのが狙い。ロゴを決める際は、NICOのデザイン・ラボにも相談させてもらいました。将来は「ど」の文字だけで認識してもらえるブランドになれたらと考えています。
食品ロスになっている
酒粕とレタスに注目
大きな「ど」の文字が躍るロゴが印象的な「越後ど発酵」は、長岡市にある酒蔵の柏露酒造、味噌醸造のたちばな、新潟県醤油協業組合という発酵を手掛ける3社と、アクアポニックスと呼ばれる循環型農業を手掛けるプラントフォームによる共同プロジェクトで生まれたブランド。最初の商品として「古志漬けの素」と、それを使ったレタスの漬け物「古志漬け(レタス)」の本格発売を始めた。
「古志漬けの素」は酒粕、醤油、米麹をブレンドして再発酵させた調味料。加熱処理を行っていないため、麹菌が活きているほか、材料の3種類の菌のほかに専門家も未知という菌が存在し、それがさらに味に深みを生み出してくれているという。酒粕が苦手な人も楽しめる味を目指して開発を繰り返し、どこか懐かしさを感じさせつつも、これまでにない新しい味わいの商品となっている。
材料は、柏露酒造の酒粕、そしてプラントフォームで栽培している無農薬レタスの規格外品だ。それぞれ製造工程のなかで、廃棄されてきたものとなる。同プロジェクト事務局の遠﨑氏は「このプロジェクトは、商売抜きで長岡を盛り上げるために何かをやろう、という志を持った人が集まって始まりました。やるからには社会的な問題を解決したいということで、全員が食品製造業だったことから、食品ロスにフォーカスしよう、その課題をそれぞれの会社が持つ発酵技術で解決していこう、ということになりました」と話す。新潟県内での食品ロスは推定9万トン、そのうち食品製造業で約1万トンが発生している。
プロジェクトメンバーはSNSで知り合い、たまたま長岡市の同じエリアの、発酵に携わる食品製造業者が揃った。長岡の発酵といえば摂田屋地区が有名だが、ここからも発酵食文化を盛り上げたいという共通の思いから企画がスタートした。
「古志漬け(レタス)」に使われるレタスは、アクアポニックス農法で、チョウザメ養殖と合わせて作られているもの。栄養価が高く、シャキシャキした食感のしっかりしたレタスを一旦塩漬けし、加工している。
古志漬けを通して
食の循環を復活させる
商品開発で重きを置いたのは、純粋においしいものを作ること。「パンフレットなどでは新潟県の食品ロスをゼロにすると謳ってはいますが、消費者の皆さんに対しては、まずはおいしいから選んで食べてもらうということが大事。その先に長岡の発酵文化と食品ロスについて関心を持ってもらえたらと考えています」。
4社が利害関係なく、全く同じスタンスでプロジェクトに取り組んでいるというのもユニークだ。商品開発からロゴまで、全て全員で相談したうえで決定し、コストについても全て原価で計算して均等に負担し、商品を販売することで儲けが出る仕組みにしている。
「そもそもの目的が社会貢献なので、メンバーそれぞれの責任感が倍増し、情熱を持って取り組んでいます。とはいえ、それぞれ経営者ではないので、最初は開発費用をどう捻出するかが大きな課題でした。その中で、長岡市のバイオエコノミー推進事業の補助金を知り、フードサイクルも対象になるということで応募。支援していただけることになりました」。
この採択をきっかけにメディアの取材を受けるようになり、経営者や周囲からの応援も得られ、一気に追い風に変わったという。
味の決定までは非常に苦労したが、出来上がったものへの評価は上々。「酒粕の風味があることで、“新潟の人が好きな味だ”と言われますね。古志漬けの素を使ってきゅうりを漬けたら、家族からこんなにおいしい漬け物は初めてだと言われた、というお話も聞きました。食べると不思議に日本酒が飲みたくなる味なんです。新潟では酒粕は漬け物や煮物に使ってきて、昔はちゃんと食が循環していた。そうした食文化やサイクルを、古志漬けを通して次代に繋いでいきたいです」。
「古志漬けの素」はそのままソースとして味わったり、からあげの下味付けに使ったりでき、アレンジレシピも公開している。
保存料無添加の「古志漬けの素」(250g540円)は常温で3ヵ月、「古志漬け(レタス)」(200g324円)は冷蔵で3ヵ月保存できる。現在、扱ってくれる小売店を開拓中だ。
最終目標は食品ロスを
みんなで考えるメディアに
今後は賛同してくれる農家や食品製造業者を巻き込みながら、新たな商品開発に取り組んでいく。長岡には栃尾の油揚げがあり、その製造過程では大量のおからが食品ロスとなって廃棄されている。そのおからを使った代替チーズが、次なる開発食品の候補だ。また、日本酒が世界でブームとなっているなか、欧米人にとって日本の漬け物は新しい感覚の食であるため、海外で日本酒と一緒に販売する機会も探っていく。
この活動の最終目標は「『越後ど発酵』共同プロジェクトが食品ロス削減のメディアになる」ということ。その発信、交流の場として立ち上げたサイトが『越後 LOVE COMMUNITY』だ。消費者がここにアクセスすると、いまどれだけ食品ロスを減らすことができているかを数値で見ることができる。今後は、内容を充実させていき、食品ロス削減に取り組む企業の紹介や、発酵についての情報も発信していく計画だ。「食品ロス削減カウンターを見ていると、うまくいけば年間1トンを削減できそうです。でも、まだたったの1トンです。我々の取組が刺激になって、他の企業さんの刺激になればうれしいですし、活動を知ってもらうこと自体が、いろいろな人の考えの選択肢の一つになれればと思っています」。
越後ど発酵
越後 LOVE COMMUNITY
商品の販売状況による食品ロス削減の状況を、カウンターで確認することができる。
企業情報
「越後ど発酵」共同プロジェクト事務局
(株式会社プラントフォーム)
長岡市上前島1-1863