紙台帳と“あの人頼み”の現場を改革。
工程のデータ化とAI活用で技能伝承を実現。
ステンレス製厨房用品の開発・製造を長年手掛け、現在は業務用厨房用品ブランド「ichibishi」と家庭用台所用品ブランド「conte」を展開する一菱金属。NICOの支援を活用し、全社員がリアルタイムで生産工程の進捗や在庫の情報を共有できるシステムを構築。大幅な業務効率の改善と技能伝承を実現している。

従業員数が変わらずに生産量と売上が伸びたのは、投資に対する回収ができた証だと語る江口氏。「システム化がうまく進んだのは、NICOの青木さん、よろず支援拠点の鈴木さん、カワイ精工さんと、適切なタイミングで適切な人に出会えたことが大きかったと思います」。
壁打ち面談で課題を抽出。
オリジナルシステムの開発へ
ステンレス素材を中心とした加工技術を強みとする一菱金属は、業務用厨房用品の開発・製造をはじめ、2016年から台所道具ブランド「conte」をスタート。企画・開発・販売まで自社で手がけることで付加価値を高めている。
同社は2023年、NICOの「データ利活用型設備導入助成金」を活用して製造現場における全工程を見える化し、全社員が情報を共有できる工場管理システムを構築した。「そもそものきっかけは、製品の誤配送をなくしたいという思いでした」と江口氏。問屋にまとめて卸す業務用製品と違い、自社ブランド製品は小売店に少量ずつ配送する必要がある。請求先は1社でも、納品先が複数に分かれるケースも少なくない。「conte」の立ち上げから県外の取引先が増えたことで、納品手配ミスによる誤配送のリスクを強く意識するようになったという。「そんなときNICOの青木龍雄アドバイザーが来社し、雑談の中でこの話をしたところ、専門家派遣でITによる経営効率化に詳しい鈴木俊雄氏(現・生産性向上支援センター統括サポーター)を紹介していただきました。初回の面談で、他にも業務上の課題が多数あることが見えてきて、壁打ち面談を繰り返し、課題をピックアップしていくうちに、これらの課題が全て解決できるなら、独自のシステムを作るべきではないかという考えに至りました」。
システムの開発者として鈴木氏から紹介されたのが、上越市の金型メーカー・カワイ精工だった。「カワイ精工さんは、汎用性の高いデバイスを自分たちで工夫して活用しながら、オリジナルシステムを構築しているところに好感が持てました。上越までは車で1時間ほどで行けるので何かあったときにもサポートしてもらえますし、製造業に対する理解も深く、それが連携先を選ぶ上での決め手になりました」。

まかないボウル / 丸バット / 平ザル

おてがる薬味トング
台所道具のオリジナルブランド「conte」シリーズ。機能性はもちろん高いデザイン性が発売当初から評価を受け、国内外の多数のデザイン賞を受賞している。

長年にわたり培った研磨技術やプレス加工技術を有する同社。燕地域の分業ネットワークを活用しながら高品質な製品づくりを実現している。
生産工程を可視化。
個人の技術と知識を会社の資産に
システムを導入する前は、社内や工場に分散している製品・仕掛品を紙やノートで管理していたためリアルタイムで数量の把握ができず、欠品による売上ロスが発生。さらに製造工程の進捗なども属人的に管理していたため、確認や引継ぎ作業に複数人の時間ロスが発生していた。また、生産工程が複雑で体系的な理解が難しく、技能が言語化・標準化されていないという課題もあった。「数年前、10数年ぶりにオーダーがきた製品を製造することになったのですが、誰も詳細な段取りが分からず、すでに退職していたベテラン技能者に数日間来てもらったことがありました。その経験から、個人の技術や知識を会社の資産として残すことの重要性を痛感しました」。
こうした課題を解決するため、全製品の生産工程をデータベース化し、熟練者の技術を社員に伝えるためのアシストシステムを構築。各製品の工程を一覧で表示し、工程ごとにQRコード※を紐付けた。「例えば完了した工程のQRコードをタブレットで読み取り、作業にかかった時間と数量を入力すると、次の工程に在庫が動くようになっています。仕掛品の在庫や労務費がリアルタイムで分かるようになりました」。さらに、各工程のQRコードには商品・資材仕様や作業上の注意点、説明動画などの製造ノウハウも登録されており、不明点はAIが補完することで、熟練技能者の技術や知識の共有・継承を実現している。
(※)QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です


紙ベースで管理していた頃は、工場や倉庫に点在するノートを見るために移動する時間もかかっていた。工程の詳細や段取りも複雑で、ベテラン社員に聞かないと分からないことも多かった。


QRコード付きの手順書と、手順書に紐付いた作業説明動画。技能を動画やテキストで共有することで品質の安定・向上にもつながっている。

タブレットは工場に3台配置。導入前は作業が全て終了してから必要事項を紙に手書きで記入していたが、現在はタブレットで随時入力するため、作業者の負荷も軽減した。
導入後は生産量・売上が向上。
社員自身で判断できる現場に
システム導入後は、紙で管理していた頃と比べて確認作業が1日約4時間から1時間に減少。各工程の納期や段取りなどを作業者自身がデータベースやAIで確認するようになったことで、時間のロスや口頭伝達のミスが減少した。導入前後を比較すると、従業員数は変わらないにもかかわらず、生産量は約1.5%、売上は約6%向上するという成果を生み出している。「社員が作業全体の流れを俯瞰して見られるようになり、次に何をすればいいかを予見できるようになりました。誰かに聞いたり言われたりしなくても、自分で判断して行動できるようになってきたと感じます」。
今年1月には、東京で開催されたシステムの展示会「ファクトリーイノベーション2026」で、本事業の取組について江口氏が講演。5月には、このとき出会った大手企業の7名が名古屋から視察に来るなど、新たなつながりも生まれた。「展示会では“現状を変えたいが、何から始めたらよいか分からない”という声を多く聞きました。同様の課題を抱える企業が多いことを知り、当社の取組は間違っていなかったと実感しました」。
生産性の向上というテーマに対して、今後はよりAIの活用が増えるのではと江口氏は語る。「今は作業者が作業工程の写真や動画を撮ってアップし、注意事項をテキスト入力していますが、もう少し時間が経てばAIでできることがもっと増えると思います。また、新商品を作ることも大事ですが、作ったものをきちんと伝え続けることも重要です。展示販売やイベントなど、ユーザーとつながる売場の人たちと直接会うことで、信頼関係を構築していくことも大切にしていきたいと思っています」。
企業情報NICOクラブ会員
一菱金属株式会社
燕市燕21-1
TEL.0256-63-7211
URL https://www.ichibishi.jp/
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