社員がたち止まる、改革への想いが伝わらない。
5Sが根付く土台は「ステップ0」の組織づくりだった。
金属の切削加工を手がけ、協力企業と連携しながら熱処理や表面処理などの幅広い加工に対応することで、製造業のものづくりを支える中澤鉄工所。約10年前の代替わりを機に、社内環境改善や生産性向上を目指し、よろず支援拠点のコーディネーターを交え、社内一丸となって5Sや作業標準化といった取組を進めている。

試行錯誤しながら約10年間、会社の環境改善を継続できた理由について「自分の子ども達がこの会社をやってみたい、と思ってくれるような会社を目指しました」と振り返る中澤社長。昨年4月にはご息女も入社し、管理業務から製造業務まで幅広く業務に携わっている。
経営を基礎から学ぶために
後継者育成塾に参加
繊維のまち・見附市で、繊維機械の修理・メンテナンス業として1967(昭和42)年に創業した中澤鉄工所。現在は高い技術力を活かして工作機械向けのスピンドルやシャフトなどの精密部品加工を手がけている。特に丸物切削加工を得意とし、他社が敬遠しがちな鋳物や異形加工といった難易度の高い案件にも対応することで強みを発揮する。
工場に入ると、材料や多種多様な工具が見やすく・使いやすく、そして美しく整理整頓されているのが印象的だ。社員の方はテキパキと動き、にこやかに挨拶してくれる。しかし以前は社員同士の会話も少なく、全く違う雰囲気だったという。会社が変わったきっかけは約10年前、創業者である先代から現在の中澤社長に代替わりした頃だ。当時、主要な取引先企業が仕入れ先を海外に移管することになり、売上が2割ほど下がる見通しとなった。そこで中澤社長は町工場の集積地である東京・大田区へ営業に出かけた。「当時は会社のパンフレットもなく、営業資料の用紙が1枚だけ。面談では会社の強みや特徴を全く語ることができず、撃沈でした」と振り返る。肩を落として戻ると、タイミングよく地元信用金庫が主催する後継者育成塾に参加する機会を得て、経営に関する勉強を始めた。そこで出会ったのがよろず支援拠点の山崎勝雄コーディネーターだった。後継者育成塾終了後も月1回のヒアリングを通じて経営相談を継続し、現在の担当である鈴木裕之コーディネーターに引き継がれている。また、それだけでなく経営の勉強会へ積極的に参加している。

使用する工具は、①しまう場所を固定する ②ナンバリングして棚に収納する ③手元化(作業する場所のそばに置く) などの工夫により常に整理整頓された状態をキープ。

整理整頓された工場内。床のラインテープは人の出入りが多い箇所を点線にしておき、貼り替えを容易にしているのも参考になるアイデアだ。


丸物の切削加工を得意とする中澤鉄工所。他社が敬遠しがちな鋳物の加工にも対応。
朝礼も会話も理念もない…。
気楽な「お茶会」が突破口に
代替わりした頃の社内状況は、朝礼も理念もなく、「ただ出勤して作業し、そのまま帰るような状態だった」と中澤社長。そこで朝礼や職場の改善提案、役割を決めて社内活動に取り組む番長制度など、次々に取組を開始するも、「また社長が何か始めたな」と社内は冷めた空気だったという。そんなとき社員の一人が「会社で一日中誰とも話さず、家に帰ったら声が出なかった」と漏らしたことにショックを受け、「今のままの会社では誰一人幸せにできない」と痛感。そこでまずはお互いのことを知るために、月1回約2時間、お菓子を食べながらプライベートな他愛のない話をする「お茶会」を始めた。そもそも製造業で2時間も工場を止めるのは勇気のいることだったが、1年近く続けていると社員の間に「自分の話を聞いてもらえる」という安心感が生まれ、組織が良い雰囲気に変わってきた。その後、自分たちの会社が大事にしたい「フィロソフィ」を外部講師の指導のもと策定。社長や幹部が押し付けるのではなく、社員たちが話し合って作成したフィロソフィは「仲間のために働ける」「成長するための努力ができる」「楽しく鉄を削る」など等身大の言葉が並ぶ。朝礼も形骸的なものではなくなり、フィロソフィに沿ったエピソードを担当制でスピーチするようになった。
よろず支援拠点の鈴木コーディネーターによると「5S活動の支援で企業を訪問することがありますが、いきなりやるぞ、となると、これまでの仕事の進め方やルールが変わることへの不安から、社員の反発も少なくない」とのこと。「中澤鉄工所さんはお茶会やフィロソフィの作成などを通じて、仲間や会社、働くことに対する意識という『土台』をしっかりと作っていた。何のために5Sをやるのか理解してもらえればスムーズに活動が回っていくだろうと予想でき、実際その通りでした」と語る。

社員が言葉を出し合って作り上げたフィロソフィは、ハンドブックサイズにして全員に配布。朝礼で読み上げたり、フィロソフィに沿ったスピーチをしたりする。

朝礼の様子。和やかな雰囲気の中で進められる。


20代の若手からベテランまで年齢の壁がなく風通しの良い雰囲気。「人づくり・ものづくり・仲間づくり」をテーマに掲げ、社員一丸となってより良い会社づくりを進める。
年間休日数の増加や給与改善を自分たちの手で勝ち取る
5Sは単なる整理・整頓・清掃・清潔・躾ではなく、「気づく心」と「チームワーク」がその本質であると鈴木コーディネーターは言う。中澤鉄工所では、決め事を守る習慣や「隣のセクションが忙しそうだから手伝おう」といった気づく心を養う場として5Sが機能している。また、それまで職人の自己流が多かった作業の標準化を進めることで、品質の向上や安定化を実現。併せて職人の多能工化(マルチスキル化)を推進し、工場全体で生産性向上に取り組んだ。
こうした10年にわたる地道な活動により生産効率が向上し、売上を落とすことなく年間休日約15日間増を実現。給与面も改善しているという。さらに、企業活動を自分ごととして考え、経営者視点を養ってもらう目的で、売上・仕入・粗利などの数字を毎月社員と情報共有している。「休日や給与などの良い環境は与えられるものではなく、自分たちで勝ち取るもの」という認識が、さらなる意欲向上につながるという好循環を生み出している。
5SやDXは、会社が目指すところへ向かうための手段であり、目的ではない。中澤鉄工所では5Sに取り組む前に「なぜ自分たちはここで働くのか」という意識づけを明確にする、いわばステップ0の段階で社員と丁寧に向き合った。仲間と協力し合うことで無駄や不具合を減らし、人の力を最大限に活かして質の高いものづくりを進めていく。「人づくり・ものづくり・仲間づくり」を企業活動のテーマに掲げる中澤鉄工所の躍進にこれからも注目したい。
企業情報
有限会社中澤鉄工所
見附市葛巻2-5-5
TEL.0258-62-3779
URL https://nakazawa-tekkojo.jp/
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