本業のデザイン・印刷で培った「課題解決力」と「機動力」を活かして防災用品市場へ参入
デザイン・印刷業のプログラフが防災分野の商品開発をスタートしたのは2023年。「ごはん入り缶詰」を皮切りに、若年層の防災意識向上を目的としたユニークな「ゾンビ×防災」シリーズ、そして2025年にリリースしたのが車載用簡易トイレ「くるまのトイレ」だ。NICOの支援を活用した開発の経緯を聴いた。

デザイングループ 木村宏子 氏
「『くるまのトイレ』は、箱の中に防災用品をセットして独自に商品化している取引例もあります。7月には三条市のふるさと納税の返礼品にも採用されました。この商品を起点にさまざまな取引先が大きな輪でつながり、多くの人の幸せに結びつけばうれしいです」(写真右から藤田社長、木村氏)。同社は社員自らがプロデュースし、商品化、収益化する挑戦を続けている。
自社で開発・製造可能な防災用品にフォーカス
「印刷市場の今後を見据えて展開を考える中、私たちはデザインや印刷を通じてお客様の課題を解決するのが仕事。そこから発展して『世の中の課題を解決する』と考えた時、最初に着目したのが食糧不足問題でした」と、藤田社長はごはん入り缶詰を開発したきっかけを話す。飲食店と共同開発した缶詰の売り方を考える段階で「防災」市場に行き着いたという。しかし防災分野の知見がなかったため、まずは県が進める防災に関する資源を集約・活用する取組「にいがた防災ステーション」(※)に参加。そして、2024年3月に担当の木村氏が全体フォーラムに出席した際、同じく参加していたNICO担当者に相談したことからNICOの支援メニューを活用した商品開発につながった。
当初、木村氏ら開発メンバーは防災用品のセットを作りたいと考えていたという。しかしアイテムのほとんどが外部製造のため、収益を上げようとすると販売価格が跳ね上がってしまう。「しっかりと商流に乗せて収益を出すには、自社製品を作った方がいいとアドバイスをいただきました。そこで考えたのが車の中で使える段ボール製の簡易トイレでした」(木村氏)。
トイレ本体の製造を取引のある包装資材会社に依頼すると「面白そうだから一緒にやろう」と快諾。社内で図面を引き、カッティングマシンを使って試作を重ねた。「箱型トイレの高さや大きさを変えて数十パターンは作ったと思います。特に難航したのは高さで、男性は高い方がいい、女性は低い方がいいと意見が分かれ、最終的には女性に寄せたものを作りました」。同社は商品パッケージの制作実績が豊富で、国際デザインアワードでも入賞実績を持つ。培ってきた企画デザイン、設計・試作のノウハウを生かして開発が進んだ。
※「にいがた防災ステーション」:新潟県が進める産学官連携の防災産業のクラスター形成により、防災に係る新しいプロジェクトやイノベーションを創出するプラットホーム
使用シーンが一目瞭然のパッケージデザインに
商品開発と並行し、4月から新潟県よろず支援拠点コーディネーターの楠正久氏と連携。半年後に行われる危機管理産業展での発表を目標に、価格設定や販路開拓など定期相談をしながら取り組んだ。特に価格設定に関しては上代・下代の考え方など基礎からレクチャーを受けた。「商品は利益が出ないと作り続けられない。一度作って終わりではなく、いかに長く売り続けるかが大事、という楠氏のアドバイスを土台に価格を決められたのが本当に良かった」と木村氏は話す。
パッケージデザインは商品デザイン・ラボの「伝え方相談」を利用し、伝え方・見せ方を専門とするアドバイザーの山田乙葉氏に意見を求めた。当初はトイレのふたをモチーフにした雑貨店を意識したデザインだったが、「使い方が伝わるデザインにしたほうがよい」との意見を受け、使用シーンが一目でわかるポップなイラスト案に変更。商品名も「みんなのトイレ」から用途を示した「くるまのトイレ」に修正した。
商品の特徴を整理し、機能をわかりやすくしたことで、お披露目となった危機管理産業展では車載トイレを求める顧客から反響があった。「ある運送会社の方が『これはすばらしい商品。会社の備蓄にぜひほしい』と言ってくれました。パッケージのイラストと、『災害・渋滞・雪害・立ち往生』のコピーにも引き付けられたそうです」。
「くるまのトイレ」
使用シーンが一目でわかるイラストが特徴のパッケージ。什器は一般的な陳列棚の奥行きに合わせて設計され、機能を明確に伝えるデザインに仕上げた。
東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2025「女性のハートをキャッチするギフトグッズコンテスト」にて準大賞を受賞
ありそうでなかった、車のシートに置いて使用できる簡易トイレ。箱型で収納しやすく、組み立て済みのためスリーブを外せばすぐに使える。穴の部分に防災用品をまとめて収納できるのも便利(※)。
※製品は凝固剤と処理袋のみのセット
企業イメージに合わせたオリジナルデザインにも対応。
トイレ本体は大きさや高さを変えて何度も試作。枠の内側に芯を入れて耐荷重を高めるなど安全面にも配慮した。試作や調整が社内で素早く対応できることも強み。
各展示会に合わせた見せ方で最大の効果を狙う
2025年2月には東京インターナショナル・ギフト・ショーに出展。危機管理産業展は自社の備蓄品を探す人が多かったのに対し、こちらの来場者はバイヤーがメイン。そのため、実店舗での陳列風景をイメージできるよう、実物大の什器を製作して臨んだ。「展示会ごとの特徴を踏まえ、その展示会で何を伝えるべきか、そのためにはどんな見せ方が効果的か、山田氏に相談に乗っていただきました」。また、本業のデザイン・印刷ノウハウを活かし、OEM対応も可能であることをPOP等で積極的にアピールした。
2つの展示会の成果としては、運送会社からの大口注文に加え、ネット販売やカタログ通販などからの反応が良く、定期受注にもつながった。さらにニイガタIDSデザインコンペティション2025にも挑戦。入選には至らなかったが、審査委員の講評から今後の売り出し方やブラッシュアップのヒントを得た。「外部からのアドバイスだからこそ素直に聞ける部分もある。その意味でもNICOの支援はありがたいと思います」と藤田社長。
新商品開発は、本業の傍らでどうやって作業時間を作るかが課題になりやすい。木村氏は通常業務と並行しながら、展示会発表をゴールに定めてやり切った。発売に向けては耐久性や権利面などの不安も多かったが、アドバイザーやNICO担当者に相談しながら進めることができたという。「トイレの耐荷重を外部でテストし、その表記について新潟県工業技術総合研究所に相談したり、特許や実用新案を取った類似品がないか、弁理士の出張相談を利用したりもしました」。その丁寧で実直な仕事ぶりが、今回の商品化へと導いた。デザインによる課題解決という自社の強みを活かした新たな市場への挑戦と、そこで培った経験を地道に積み重ねていくことが、次の事業展開へつながっていく。
プログラフがプランニングから商品設計、販売まで手掛ける防災用品。「備え」を特別な準備ではなく、日常の延長線上にあるものとして提案する。(東京インターナショナル・ギフト・ショーの合同展示ブースより)
2010年頃からメッセージカードや付箋メモなどのオリジナル紙製品を発売。「frel(ふれる)」のブランド名でオンラインでも販売。芸能事務所やプロ野球チームのグッズも幅広く手掛けている。
企業情報NICOクラブ会員
プログラフ株式会社
三条市北入蔵1-9-20
TEL.0256-38-5735
URL https://prograf.co.jp/
「くるまのトイレ」特設サイト https://prograf.co.jp/lp/kurumanotoilet