目の前の利益改善と、長期の将来ビジョンという両輪でポジティブに理想とする経営へ
1970年に村上市で創業した柏崎ドライ。地域密着のいわゆる「町のクリーニング屋さん」だったが、従来のような仕事の減少を見越して、染み抜きと復元加工(染みや変色を元の状態に近づけて修復する加工)の技術を習得。2年前から新潟県よろず支援拠点もサポートし、新規客を増やしながら理想に向けて走り出している。

よろず支援拠点の支援について最初のイメージでは『経営はこうあるべき』という型にはめられるのかなと思っていました。でも自分の目指す方向を確実に聞いてくれて、それを生かすにはここを見ていかなければいけない、という視点でアドバイスをしてくれたのが非常に良かった。思っていたよりハードルは全然高くなかったです。(澤田代表)
高度な技術を身につけ全国で約100人の修復師に
柏崎ドライは年間3,000点の染み抜き実績があり、他店では落とせなかった衣類の染みや、バッグ・靴などのレザークリーニングにも対応。同業者から品物が持ち込まれることもあるという、技術力は折り紙付きの店舗だ。丁寧な対応も支持され、リピーターを含め県内外からさまざまな依頼が寄せられている。「ファストファッションの流行などで従来のクリーニングの需要が激減しているのを肌で感じ、他店には無い技術を身につけようと、2013年頃から東京と長野で染み抜きや復元加工を学び始めました。学科と実技の試験を受け、全国でも100人ほどしかいない京技術修染会認定の修復師の資格を取得しています。実技試験は人間国宝の方が審査し、3度目の正直で合格しました」と澤田代表は話す。
強みとなる技術を身につけたものの、その方向性が合っているのか迷いもあったという。同じ頃、銀行からの融資がスムーズに進まなくなり、担当者の紹介で新潟県よろず支援拠点の鈴木俊雄サブチーフコーディネーターから収益計画や利益改善のアドバイスを受けることになった。まずはNICOの「専門家派遣事業」により経営改善計画を策定。その後、具体的に計画を行動に移すため、鈴木氏が継続してサポートした。「鈴木さんには経営のお金の流れや原価の把握など基本的なところからご指導いただきました」と澤田代表。鈴木氏はこう振り返る。「まずは計画達成に向けて現状の予実分析を行いました。それまでは売り上げと経費を年間でざっくり見ていたそうですが、月次で損益を見てもらうようにしたのです。経費削減に関しても、何でもかんでも減らすのではなく、経費の種類を明確化し、どの部分なら減らしやすいか、減らしても本当に問題ないか考えるようアドバイスしました」。
「柏崎ドライ」は先代の出身地が柏崎であることが店名の由来。集配を希望する昔からの常連客の自宅には、今でも週1回訪問する。
2023年2月に鈴木氏(写真右)による支援がスタート。月1回の対面による面談に加え、メールやオンライン相談も随時活用。店頭ではPOSレジの有効な使い方もアドバイス。売上の項目を詳しく分析し経営改善に役立てている。2人は率直に意見交換しており、距離の近さが伺える。
更新頻度を意識したSNS効果で新規客を獲得
数字面の経営改善と並行して「5年後、10年後に事業がどうなっていたいか」「どんな客層を増やしていきたいか」といった長い目で見た会社の将来像についても、澤田代表と鈴木氏で対話を重ねた。
目標達成のためにも染み抜きの依頼案件を増やすべく、情報発信、広報も強化することに。元々あったWebサイトに加えてInstagramやFacebook、LINE公式アカウントを開設。地元密着のポータルサイト「まいぷれ村上」のサイトにも情報を掲載している。SNSに関しては、情報発信を専門とするよろず支援拠点の本間氏から助言を受けた。「更新頻度を上げるようアドバイスをもらい、大変でしたが意識して更新を続けてきました。最初は反応が薄かったのですが、1年ぐらいすると問い合わせが増え、今年の春は毎週のように新規のお客様から依頼を頂くようになりました」と澤田代表。SNSは、意外にも地元の若いお客様からも反応があり、ビンテージもののTシャツを持ってきた地元の高校生もいたという。LINEは、遠方のお客様には見積もりや画像による染み抜きの確認、近隣のお客様には仕上がりの連絡など、顧客との連絡ツールに有効活用している。
来店客には必ず「お客様カルテ」を記入してもらい、LINE友だち登録を促している。仕上がりの連絡をLINEで行うことで業務の効率化と負担軽減にもつなげている。
本間氏の支援を受けSNSの情報発信にも注力。特にInstagramは反響が大きく、ダウンジャケットの襟についたファンデーションの汚れを落とすリール動画は、再生回数を大きく伸ばした。
やりたい経営に対する客観的なアドバイスが気づきに
支援を通じて鈴木氏が特に印象に残っていることは、経費に対する澤田代表の意識の変化だという。店全体のコストではなく、例えばワイシャツ一枚のクリーニングにいくらかかるかを実際の材料費や仕上げにかかる経費などから算出し、価格改定の参考にすることができた。また、ある時従業員が1週間ほど休んだ際に、澤田代表が代わりにクリーニング業務を担当したことがあり、経費削減になればと試しに1つ工程を減らしてみたところ、従来とほぼ同じ品質に仕上げることができたという。「日頃から経費を意識していたからこそ、時間と経費を節約するオペレーションに気付けたのだと思います」と鈴木氏。今ではそのやり方が店の標準になっているという。
新潟県よろず支援拠点について澤田代表は「こうした支援や指導を受けると勘違いしやすいですが、あくまで実行するのは自分。鈴木さんのお店じゃないですもんね」と話す。一方で、「企業の先頭に立っていると、社内で何もかも相談することは正直難しい。かといって一人で考えていると視野が狭くなり迷子になってしまう。鈴木さんとお話しして、染み抜きやレザークリーニングの技術が当たり前ではなく、会社の強みであることを改めて教えていただけたのも大きかったです。また、自分がやりたい経営をやればいいという簡単な話ではなく、世間的に見るとこうした方がいいという客観的な視点でアドバイスをいただけたのも非常に助かりました」。
今後はより“攻めの経営”にシフトしたいという。「今考えているのはイベント。染み抜きの実演を地元の方々に見ていただきたいです。新しい服をどんどん買って消費するファッションではなく、必要だから買い、長く大切に着たいという方のお手伝いをしていきたいですね」。
一般のクリーニング店にはない設備、汚れに合わせて使い分ける数十種類もの溶剤、そして高い技術で染み抜きと復元加工を行う。習得した技術を生かしたサービスは高い収益が見込めるため、今後も顧客を増やしていきたい分野だ。
生地に合うクリーニングはもちろん、洋服の用途を考えながら一つひとつ手作業で対応している。
ペン先からのインクがべっとり滲んだポケットもすっきり綺麗に
レザーブーツに血液のシミ。難易度の高い革製品のしみ抜きも可能
企業情報
株式会社柏崎ドライ
村上市瀬波中町2-1
TEL.0254-52-5578
URL https://murakami-cleaning.com/