雪国・魚沼から世界へ
酒造りのストーリーと共に日本酒の可能性を広げていく。
代表銘柄の「玉風味」や、雪中貯蔵の「吟醸原酒ゆきくら」をはじめ、銘酒の数々を生み出している玉川酒造。近年、海外販路開拓を本格化。海外向けに開発した「イットキー」も好評だ。志を同じくする杜氏・蔵人・社員と共に、世界市場への挑戦を加速させている。

アンテナを張りつつ、巡ってくる運を拾うことも大切にしているという風間代表。「私が海外を狙っているという話を聞いた酒造組合の方から、NICOの支援メニューを紹介していただきました。とてもありがたいことだと思っています」。
アメリカでのリサーチから日本酒の概念を覆す酒が誕生
雪深い魚沼の地に、寛文13(1673)年から続く老舗酒蔵の玉川酒造。雪蔵貯蔵の酒をはじめ、多くの銘柄が品評会で賞を獲得するなど、その酒造りには定評がある。「清酒消費量が年々低下し、販売業者も減少するなか、各社が多様なアイテムを発表している国内市場は競争が激化した『レッドオーシャン』の状態にあります。当蔵は規模が小さいので、経営戦略は高品質なお酒を造り、高単価・高付加価値の商品として市場に送り出すこと。そうした商品の販売先として、海外は20~30年前から意識してきました」と風間代表は話す。
大きなターニングポイントとなったのが、2016年から開発に取り組んだ純米吟醸酒「イットキー」だ。一般的な日本酒より甘さと酸味が5倍強く、甘酸っぱい味わいが特徴のアイテム。誕生のきっかけはアメリカ市場へのリサーチで感じた違和感だった。「日本酒の最大の輸出国であるアメリカを狙いたくて、10年程前に現地調査をしたのですが、当時は日本で売れている有名銘柄がそのまま送り込まれている印象でした」。日本酒の輸出先として最大規模でありながら、アメリカ国内で消費されるアルコール類のうち、日本酒は全体の0.1%に過ぎず、伸びしろを感じたという風間代表。「そこで感じた違和感が、日本酒はアメリカ人の味覚にあっているのか、ということ。韓国のキムチも日本では日本向けの味になっている。伸びしろがあってもアメリカ人向けの味に変えなければ、シェアは増えないのではないかと思いました」。
アメリカでは、シンプルで濃い味付けの料理に合わせ、コーラやジンジャーエールといったインパクトのある飲み物が好まれる。イットキーはこうした嗜好に合わせて開発された。


イットキー(IT’S THE KEY)の名前には「日本酒の新しい世界を開く鍵」「お酒で楽しい一時を」など、さまざまな思いが込められている。ラベルには英語による説明文も掲載。地元の英語講師に英訳を依頼したもので、海外でも「美しい文章ですね」と褒められるという。今年4月には新たなラインの特別純米酒「ガラパゴス4D(フォースディメンション)」が誕生。こちらも強力なアイテムとなりそうだ。

「意外だったのは、イットキーが国内市場でも売上が伸びていること。関東の主要スーパーでも販売されており、会社のイメージを作る役割も果たしてくれています」。

世界でも有数な降雪量を誇る地にある玉川酒造。雪という自然の恵みを活かした酒造りのストーリーも、海外に向けて強いウリになる。


酒蔵の目の前には雪で覆われた雪蔵があり、ここで「吟醸原酒ゆきくら」を貯蔵。中の温度は通年2~3℃に保たれている。
オーストラリアの市場を肌で感じられたフェス参加
イットキーは発売前に「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」で最高金賞を受賞。これを軸に海外展開を進め、アメリカ市場こそコロナ禍に一旦白紙になったものの、香港やシンガポールなどのアジア地域で売上が伸びていった。
2025年には新規開拓として、新潟県酒造組合と共同で「オーストラリアSAKEフェスティバル」に参加。費用にはNICOの海外展開助成金も活用した。「オーストラリアは酒を扱う資格を取得していないと、人にお酒を注ぐこともできません。参加前に組合主導で受講機会が設けられたので、とても助かりました。試験問題は英語ですし、自分一人では取得は難しかったと思います」。お酒は規制が厳しく専門店でしか販売されていないことなど、現地に行ってみて分かったことも多かったという風間代表。「新しい市場を開拓するときは、単独ではなく誰かと一緒に挑戦したり、その市場に詳しい人から教えてもらったりすることが大切だと思います」。
イットキーはフェス来場者にも好評で、持参分は開催中に完売。最終日の翌日には、ジェトロによって商談会の場が設けられ、現在、商社1社との取引が進んでいる。「フェス来場者は日本酒が好きな人が中心で、日本酒を知らない一般消費者の来場はまだ少ない印象でした。価格のハードルはありますが、10倍にも100倍にも市場が拡大しそうな予感があります」。


2025年に参加したオーストラリアSAKEフェスティバルの様子。オーストラリアは日本酒の輸出先国としては世界8位だが、伸びしろを感じたという。
海外に対する意識を持った社員に挑戦の場を
今年はロンドンやブラジル、香港のフェアやイベントへの参加を控えている。ロンドンには「海外と日本を繋ぐ仕事がしたい」と入社した営業担当の女性社員が同行する。またブラジルには、学生時代にブラジルへの留学経験があり、いつかまた現地に行きたいと話していた酒造り担当の男性社員が参加する。「私の経営方針として、一番に優先したいのが社員の幸せ。仕事に関する夢があって、それが実現できる場があるならやってもらいたいと考えているので、今回はそれぞれにいい機会だと思っています。営業担当については、これを機に貿易の知識も得て、成長していってくれることも期待しています」。
現在、海外への販売は商社を介した取引に限っている。「未払いなどのリスクが避けられるのと、小さな蔵で人手も限られるので、複雑な手続きをお願いできるのは大きいです。海外取引に不安があっても、協力者がいることで、それを埋めることができます。今後重要なのは商社との関係性で、私たちの意図や思いを理解してもらいながら、三方良しでビジネスが進められたらと思います」。
海外の新たな市場に挑戦する際は、買い手がいそうなイベントに参加してみることを意識している。「闇雲に行くのではなく、販売イベントで渡航費程度は回収でき、現地バイヤーと知り合えるならトータルでプラスになる、と思えるものだけを選んでいます」。
経営者として売上は従業員に還元し、年5%のベースアップも表明している。そのためにも海外販路の拡大は必要だと話す風間代表。「社員には仕事を楽しんでもらいたい。それが酒質にも繋がっていると思っています。多くの酒蔵から素晴らしい銘柄が出るなか、どれだけ思いが込められるかが勝負になっていく。幸いなことに、今いる従業員は同じ思いで仕事に取り組んでくれている人ばかり。これからもみんなで上昇していきたいと思っています」。
企業情報
玉川酒造株式会社
魚沼市須原1643
TEL.025-797-2017
URL http://www.yukikura.com/
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