職人技で生み出す「切れ味」をレーザー測定器で見える化
品質管理責任者 渡辺 圭 氏
刃角度測定によって可視化された数値は、社内の刃付けをする職人からも関心を集めています。自分が付けた刃が数値で確認できるようになり、それが仕事の動機づけにもつながっています。(写真右より若林氏、渡辺氏)
庖丁の切れ味の検査を
官能試験から刃角度測定へ
プロユースから家庭用まで、幅広い用途の庖丁を製造する藤次郎。鍛造による「打ち刃物」とプレスを使った「抜き刃物」の技術を持ち、とりわけ安定した品質と効率のいい生産性が特徴の「抜き刃物」を得意としている。
庖丁の製造では、はじめに刀身となる鋼材をプレスで型抜きし、焼き入れ・焼き戻しをすることで硬度と粘りを与える。その後、研削・溶接・研磨・目通しといった工程を経て、最後に行われるのが切れ味を左右する「刃付け」だ。最新技術の導入に積極的な同社だが、この繊細な作業が必要な刃付けは職人の手作業で行っている。
同社では大手小売店から「品質管理をどのように行っているか?」という声を聞いたことを機に、庖丁の切れ味に関係する刃角度の測定器の導入を検討し始めた。「これまで庖丁の切れ味の検査は、ジャガイモで切れ味を確かめる官能試験を行ってきました。一般のお客様からも数字での評価を求められる時代になり、これまで実施していなかった刃角度を調べることにしました」(若林常務)。そんな時に知ったNICOの「データ利活用型設備導入助成金」を活用し、検査機械の導入を進めた。
刃付けは職人の高度な技術を要する工程で、荒研ぎ・中研ぎ・仕上げ研ぎの順に刃を仕上げていく。測定した刃角度は技術継承のためのデータとしても活用される。
高精度データを元に
自動化の研究に挑む
導入したのはレーザー変位計を使った測定器で、刃先の3カ所の角度を測り数値化する。「ロボットを使うことで高精度の測定ができる仕組みです。庖丁の柄の種類によってロボットアームがつかみにくいものがあり、開発ではそこに苦労しました」と品質管理責任者の渡辺氏。今年の春にデータ収集を始めたばかりだが、これまで感覚的に共有されていた「切れ味」の一要素が可視化できるようになった。
少子高齢化によって想定される職人不足に危機感を持つ同社。「短期的な目的は刃角度基準値を策定し品質管理に活用することですが、将来的には刃付け工程を含めた自動化を進めたいと思っています。刃角度の測定は、そのための研究にも活用していきます」と渡辺氏は話す。職人技によって生まれる高度な刃付け技術。職人の経験知のデータ化によってものづくりの可能性を探っていく。
ケースに並べた庖丁をロボットが1本ずつピッキング。レーザー照射により、正確に刃角度を測定する。ロボットによる自動化で、検査の省力化も実現。
企業情報
藤次郎株式会社
燕市物流センター1-13
TEL.0256-63-7151(代)
URL https://tojiro.net/