共感・感動をコンセプトにした 温泉宿の躍進
株式会社自遊人/里山十帖 created by 自遊人
代表取締役 岩佐 十良 氏
魚沼の山間に誕生した宿は 開業3ヵ月で稼働率9割に
2014年、魚沼の大沢山温泉に誕生した「里山十帖」は、雑誌「自遊人」の発行や国内オーガニック食品の企画開発・通信販売などを行う株式会社自遊人が手がけた温泉宿。食、衣、住、農など10のテーマに沿って紡がれたストーリーのもとでサービスが提供される“ライフスタイル提案型複合施設”である。
県内でもあまり知られていない温泉地だったため、周囲から「成功はあり得ない」とまで言われたが、開業3ヵ月で客室稼働率9割を達成し、2014年度グッドデザイン賞を受賞。「グッドデザイン・ベスト100」「ものづくりデザイン賞」に選出された。いまや一度は泊ってみたい、と憧れを持って語られる注目の宿となっている。
その人気は、里山十帖が一般的な温泉宿とは違い、宿にちりばめられたさまざまな提案を体験することによって、感動や共感を得られる点に理由がある。そして、それはデザイン思考によって生み出されたものであると、同宿をプロデュースした岩佐社長は語る。
「計算だけでは、皆同じ方向になる。僕らは生物多様性を求めたい人種なので、良いと思うものに向かっていきたい。宿からお客様には何の強要もしません。自由に過ごして感じる人が感じてくだされば、それでいい」と語る岩佐社長。
ものごとの本質を問いながら 望んでいる人のために作る
「食」に注目してみると、里山十帖の料理は、魚沼の伝統野菜や山菜が中心。その理由は、次のような考え方によるという。
「食についての当社のミッションは“日本の豊かな食文化を世界に発信すること”。里山十帖の場合、それは新潟、魚沼の食です。ここで考えるべきなのが“本当の地産地消とは何か。そもそも地産地消は何のためのものか”ということです。
農業に携わる地域にとって、農地は環境保全的側面があります。しかし中山間地の農家は零細であるため、将来的には田んぼの集約が必要です。その時、農家が農業を続けるために理想的な作物は、利益率が高く、付加価値もある伝統野菜。米と共にブランド化を進め、里山十帖で提供すれば、魚沼の米と伝統野菜を目当てに当宿に来るお客様も増えていくはずです。当宿だけでは小さな動きですが、評判を呼べば同じ取り組みが新潟県全体に広がる。それによって零細農業が守られ、本当の地産地消が実現します。こうした発想がデザイン思考なのです」。
宿は築150年の重厚な新潟ならではの古民家。古民家は寒い、素敵な家具が置けない、という先入観を取り払う空間もデザイン的思考から生み出され、新潟の人に新潟の家の価値を再認識してもらいたい意図もある。
データや数字ではなく 自分たちの思考を信じる
一方で、新しい宿のスタイルを打ち出した里山十帖の計画は、周囲から理解されなかったそうだが、それがデザイン思考の特徴でもあると岩佐社長は話す。「例えば、当宿では全く新しいデザインの館内着を、亀田縞と武蔵野美術大学の学生のコラボで制作中ですが、それが間違いなく心地良い、間違いなく売れるという保証はありません。なぜならそれは今までに無いもので、データが無いからです。しかし僕たちは、絶対に望んでいる人がいる、という思いがあるから作る。新しいプロダクトの場合、数字やデータを詰めているうちに怖くなってできなくなる。もちろんエコノミカルも大事ですが、何を求めるべきかという思いのもとで作っていくことがデザイン思考の重要なポイントだと思います」。
既成概念を打ち破る思考で、温泉宿の新しい価値を見せてくれる里山十帖。だからこそ、そこにある何かを求めて宿泊客は魚沼へ足を運ぶのである。
新潟の伝統野菜にスポットを当て、魚沼の米や山菜を中心にした料理が、目にも美しく供される。肉は越後もち豚やにいがた和牛など、こちらも地のものを提供している。
企業情報
株式会社自遊人/里山十帖 created by 自遊人
〒949-6361 南魚沼市大沢1209-6(里山十帖)
TEL.025-783-6777
URL http://www.satoyama-jujo.com/