製造現場を知るベンダーとして、”地産地消”のDXを推進していく
上越市で精密プラスチック金型の設計・製作、プラスチック成形を手掛けるカワイ精工は、自社で行ったDXのノウハウを元に、2021年から中小企業向けシステム開発事業をスタート。経済産業省の「DXセレクション」に選定された同じ上越市の製造業の開発パートナーとなるなど、地元の企業と進めるDXが注目されている。
NICOのIT・情報分野の専門家としても活躍する川合専務。「県内の中小企業の経営者の方々は、DXに対して取り組まなければという危機感は持っているものの、進め方がわからず立ち止まっている、という人が多いと感じます。相談いただければ、伴走する形でお手伝いをしていきたいと思っています」 。
中小企業のために提供する
オーダーメードシステム
カワイ精工は本業がプラスチック金型製造および成形で、主に自動車のダッシュボードなどの内外装部品を手掛けている。その中でシステム開発は事業を始めて4年が経ち、売上が全体の約2割に上るなど、順調な伸びを見せている。提供しているのはシステムの受託開発、さらに自社開発したものづくり企業向け電子カルテシステム「MoldX」だ。
システムエンジニアとしてIT企業に勤めていた川合専務が帰郷して入社し、自社のDXに取り組んだことが同社がこの事業を始めるきっかけとなった。「その経験について講演する機会があり、県内企業の方から困り事を相談されることがあったので当社が培ったノウハウや作ったシステムが、お役に立てるのではないか、そう考えて、中小企業向けに事業を開始しました」。
メインのサービスは、システムの受託開発。顧客の要望に合わせて、オーダーメードでシステムを作り上げる形だ。大企業はこうしたシステムがほとんどだが、費用もかかるため中小企業が導入するのは難しい。そのため既存のパッケージを使うケースが多いが、特に製造業は会社独自の生産管理体制にフィットせず、苦労して導入してもうまくいかなかったという話をよく耳にしたという。「当社は本業が製造業なので、課題への共感があります。実際、現場で製造に関わっていた社員が、お客様の要件を伺ってシステムを作っているので、同じ目線で話せる。それが強みだと思います」。
デジタルの利便性を実感すれば
現場への導入は進んでいく
顧客からの要望は、受注から請求まで一連の流れを押さえる基幹システムから、「品質管理」といった部門のオーダーなどさまざま。DXをゼロから始める場合には、大掛かりに始めずに小さな改善から徐々にデジタル化を進めていく体制を勧めている。「私自身が、最初にいきなり現場にデータ入力をさせようとして猛反発を食らった経験があります。話をよく聞いて、抵抗がある中では順を追った進め方があると感じました。ポイントは利便性を実感してもらうこと。最初は出来る人にまとめて入力をしてもらい、徐々にデジタル化を進める。データがあると便利で、自分たちが入力すればリアルタイムで情報が共有できることが分かると意識が変わります。当社で言えば、作りたい金型の図面をすぐに検索して見ることができる、といったことですね。スマホやタブレットを導入していきましたが、もっと活用したいと今では1人につき1台のPCを持つまでになりました」。
そこから生まれたのが、モノの電子カルテシステム「MoldX」だ。製品情報や図面、3Dデータ、部品情報、製造履歴などを総合管理し、情報共有、進捗状況の把握、データを改善・開発・価格交渉などに活用できる。また、手順書を動画と合わせて掲載し、属人化している技術をデジタル化することで、技術承継ツールにもなる。「手配した部品に不良があったという連絡がきた際も履歴が瞬時に分かるなど、作業のスピード感が全く変わります。見積書を出すときにも活用していて、同じような金型を検索して、作業時間や材料費などを参考に算出して説明すると、相手も納得してくれるそうです」。
特 徴
▶︎情報共有
紙や個別に保存されていた電子ファイルをデータベース化して一元管理
▶︎製造状況の把握
各現場の稼働状況をすべて記録(作業日報、製造実績、打合せ記録、不具合記録 など)
▶︎データの活用
蓄積されたデータを設計や製造プロセスの改善、製品開発や価格交渉などに活用
「Mold X」はいわば、医療電子カルテのものづくり版。製品に必要な情報を統合管理する。※最大50%補助がある「IT導入補助金2024」の対象ツール
生成AIでデータ活用は更に飛躍。
地域に寄り添ったベンダーに
そして今、専門スタッフを入れて開発を進めているのが生成AIの活用だ。既存のシステムにAI検索機能を加えることで、自然言語処理で自由な検索が可能になっている。「例えば、“磨きに関する不具合があった金型”というざっくりした感じで検索すると、データベースから探してリストを上げてくれます。これまでは過去の業務を知らないと検索できない、ということがネックでしたが、これなら入社したばかりの若手でも過去の資料を瞬時に共有できます。情報を持っていても、蔵に入ったままでは役に立ちません。これがデジタル化の先のメリットになると思います」。
ただ、独自システムを使うことはメリットだけではない、と川合専務は話す。「どうしてもガラパゴス化してしまうというのがデメリットです。当社も導入時は汎用的なものも検討しました。しかし、中小企業の技術集団の場合は、現場にしっかり合ったものでないと導入が厳しいというのが結論でした」。その分、お客様の近くにいる地元ベンダーとして、導入後の保守・サポートに力を入れている。
DXは経営トップがビジョンを描き、それに基づいて行動する専任者がいることで、スムーズに進みやすい、と川合専務。「経営のことも、現場のことも分かっている方が担当者になっていただくと、より良いシステムが出来上がっていくと思います」。
本業での顧客は、ほとんどが県外企業という同社。それもあり、川合専務は戻ってきた際、何か地元に貢献したいと感じていたという。「IT事業は逆に県内のお客様ばかりになりました。少しでも地域のためになるように、お手伝いができればと思っています」。
製造の過程で得られる知識やノウハウを組織全体で共有して活用するシステム
●マルチデバイスから作業手順を確認できる
●画像・PDF・動画で視覚的にも理解しやすい
さらに、生成AIと連携することで、日本語での検索や集計が可能に
川合専務だけでスタートしたシステム開発部門。現在は専属5名、製造部門との兼任3名の体制であたっている。技術者は社内で育成する体制をとっている。
製造部では1人に1台、PCを支給し各人がデータを活用。作業中に発生する疑問もFAQに掲載されているため、誰かに質問してその人の作業を止めることなく自分で解決できる。
企業情報
株式会社カワイ精工
上越市三田245-1
TEL.025-544-5558
URL https://www.kawai-seiko.co.jp