2つの工法を融合した新加工技術を開発
シミュレーション活用が大きなカギに
さまざまなリング製品を社内で一貫生産し、コスト削減や短納期を実現しているタンレイ工業は、新潟県工業技術総合研究所との共同研究で、多様な素材・形状の大型容器を製造する技術開発に取り組んだ。革新的な加工方法を可能にしたのが、シミュレーション技術の活用だった。
新塑性開発課 係長 押野谷明則 氏
「トライアンドエラーを繰り返しながら、実質2年半の共同研究で目標を達成することができました。何か技術的な課題があったら、工技総研に相談するのがいいと思います」と髙橋代表(写真右)。押野谷係長(写真左)も「事前にシミュレーションすることで、失敗が怖くて試せなかった加工の方法がわかり、テストを進められるようになったことが大きかったです」と話す。
フローフォーミングに着目し新しい加工方法の開発に挑戦
鍛造から熱処理、旋削、焼入焼戻、研削、組立までの一貫生産を強みに、ベアリングなどのリング製品を製造するタンレイ工業。同社は2009年から新たな加工技術の開発に取り組み始めたが、なかなか前に進まない状態だった。「それまでの鍛造からステージを一つ上げ、鍛造品をどう加工するかというところに着目して“フローフォーミング”という特殊な加工ができる海外の機械を導入したと、当時開発を進めていた先代から聞いています」と髙橋代表。単独での開発は難しかったことから、新潟県工業技術総合研究所(以下、工技総研)に共同研究の話が持ちかけられた。
「フローフォーミングは日本ではあまり普及していない加工技術です。その理由は、機械の条件設定が非常に難しく、複雑な製品の実用化が困難だったためです」と工技総研の本田主任研究員。そこで工技総研はフローフォーミングの複雑な成形を予測するシミュレーション技術を開発してさまざまな分析を行い、加工方法を提案。タンレイ工業はその技術案に基づきデータ採取や検証を行う、ということを繰り返しながら研究開発を進めていった。
完成品に極めて近い成形で材料ロス、加工時間を大幅カット
この共同研究は2013年度から2015年度の経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に採択された。『真空装置用ステンレス製大型容器の多様な形状に対応する新加工技術の開発』を研究テーマにしたことについて、「半導体製造装置などに使用される真空ポンプのケースを、もっと早く、安く作ることが目標でした」と押野谷係長。従来は製品の元となる形を鍛造で大まかに作り、その後削り出しや溶接をして仕上げるという製造方法が主体だったが、材料のロスが大きく、加工時間が長いことが課題だった。そこで目指したのが「リングローリング(以下、リング鍛造)」と「フローフォーミング加工」を合わせた新しい成形技術だ。
「タンレイ工業さんが得意としているリング鍛造は、棒状の素材をもとに作ったリングをヨコに広げていく加工で、材料ロスは少ないのですが、複雑な形や背の高い形を作るのが難しい。それを補うため、そのリングをさらにもう一回部分的に加工してタテに伸ばせばいろいろな形状に応用できる。その加工がフローフォーミングなんです」と本田主任研究員は語るが、シミュレーションデータで実際の加工をどこまで再現できるかが、一番の苦労だったという。「我々も一つ一つ手探りで解析を進め、そのつど実験をお願いしていました」。
こうしてシミュレーションの再現性を改善しながら精度を向上。完成品に極めて近い形状へ成形することで、従来の工法と比較して材料ロスを1/4以下、加工時間を1/2以下に短縮することに成功。低コスト・短納期を実現するとともに、つなぎ目のない一体構造の真空装置用大型容器の製造を可能にした。
共同研究が技術向上と受注回復に繋がった
実用化とともに受注数も増え、中国に奪われていたシェアの一部を国内へと取り戻した。さらに多関節ロボットに応用し、減速機部品の製造が拡大した。
「工技総研の存在は知っていても、ちょっとした技術課題の相談はしづらいというイメージがあったと思います。それが実際には、いい意味で敷居が低く、さまざまなアドバイスをいただきました」と髙橋代表。押野谷係長も「当社だけで開発するのは無理でしたし、この共同研究を通して技術的なステップアップ、ブレークスルーもありました。会社の中で相談しているだけでは分からないことも、相談すればアイデアが外に広がっていくと思います」と語る。
「この共同研究でリングをタテに伸ばす技術課題を克服し、完成品に近い状態に仕上げる技術を持つことができたので、今後の大きな強みになっていくと思います。この技術を活用して少しでも社会に貢献していきたい。また、世の中にまだまだ知られていない技術ですので、アピールの方法も考えたいと思います」と髙橋代表。技術開発によって高付加価値の製品を実現した同社の今後に注目したい。
MESSAGE
主任研究員本田 崇 氏
研究期間中、タンレイ工業さんとは日々メールや電話で頻繁にやりとりをしました。意思疎通を図れる関係を築けたことが、研究をうまく進められたポイントだと思います。工技総研でも解決できないことはありますが、その時はできる範囲のメニューを提示させていただきますし、解決できる機関をご紹介することもできます。「こんな相談でいいのか」と思わずに、まずは気軽にご相談ください。
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タンレイ工業株式会社 NICOクラブ会員
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