全国初の高専発ベンチャー。
小回りのきく「AIの目」で
今、現場が求めている課題解決にマッチング
2020年7月に誕生した長岡工業高等専門学校発のベンチャー企業・インテグライは「AIの目」の機能に特化した製品で起業。実績を積み重ね、最近では大手企業からのオファーも届いている。全国で初めての高専発ベンチャーとして、現場のニーズに応える装置とシステムは、多方面から注目を集めている。

高専はある意味、ベンチャーがやりやすい環境だと感じています。学生が起業するには技術だけでなく、起業マインドも必要で、コンテストに出ることによって、その部分を養えると思います。高専はものづくりに興味がある学生が集まっているので、低学年から研究に取り組んでもらい、コンテストに挑戦させています。
AIカメラが現場を監視
数値を見える化する
インテグライは長岡工業高等専門学校で教鞭をとっている矢野代表と学生2名によって設立された会社だ。AIと小型カメラを用いた「インテグライシステム」で、工場のDX、レトロトランスフィット※を手掛けている。カメラを通してAIがさまざまな数値や計器の針、ランプなどを読み取り、データ化していくというものだ。
矢野代表は以前から工場のIoT化に取り組んできたが、ある社長が「工場の見回りが大変。アンドロイドロボットが欲しい」と話すのを聞き、「ロボットを作るのは大変だけど、ロボットの目なら作れますよ」ということで誕生したのがこの製品だった。高専生による事業創出コンテスト「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)に出場したところ、優勝。「企業価値は4億円ある。起業してみたら」との声を受け、2020年に起業した。
スタートにあたっては地元・長岡市やDCONからのサポートも得ることができた。「長岡市は市長がベンチャー支援に力を入れてくれています。ベンチャーはすぐには地元に還元できませんが、種を撒かないと芽が出ないし、芽が出たら水をあげないと育たないという考えで、起業家へのサポート体制を整えてくれています。また、DCONは優勝したところに資金を供給する取り組みをされていて、今年度はそれで増資することが出来ました」。
導入工場では高校生の
リクルートにも好影響
最初の導入事例は、長岡市で熱処理を行っている会社の工場。熱処理後、製品がどのくらいの時間で冷めるかを感覚で判断していたところに同社のシステムを設置し、温度変化をグラフ化。すると、あと何時間で冷めるかが数値として分かるようになった。カメラ自体はとてもコンパクトで、調べたい場所にマグネットで付けるだけという設置の簡易さも特徴だ。また、工場内にAIのカメラが設置されている様子を見た高校生が「この会社はAIやIoTにも理解がある」と就職を希望してくれるなど、リクルートにも有効という効果も生まれた。
昨年は長岡市の新型ウイルスワクチンの大規模接種会場で、ワクチン保存用超低温冷凍庫の温度管理にも活用された。ワクチン保存はマイナス60℃を上回ってはいけないとされ、担当者の緊張感は相当なものだ。使用していた冷凍庫では、温度変化の履歴は残るものの、現在の状況を確認することはできなかった。そこで温度表示部分に小型カメラを設置し、温度が上がった場合は携帯にメールが届くシステムにした。「設置して帰った日の夕方、担当者の方から“発報がありました”と電話がきたんですね。単にワクチンの出し入れのために冷凍庫を少し開けただけだったのですが、“AIがしっかり監視してくれているのが分かってほっとしました”というお礼の電話でした。安心していただけたことがとてもうれしかったです」。


インテグライシステムの導入事例。小型カメラを機器の読み取りたい部分に設置し、読み取った結果はAIでデータ化されてスマホ等の端末で見ることができる。設置に大掛かりな工事は必要ないため、導入へのハードルを下げてくれる。
日光や照明などさまざまな環境下での読み取り精度を高めるため、カメラの読み取りテストを行っている。ガラス越しでも計器の数値を正確に読み取れるように実験中。
「インテグライシステム」のAI搭載小型カメラ
独自AIにより、アナログ・デジタルメータを読み取る。
大手メーカーからも依頼
全国での販売も視野に
現在は、ネットワーク構築を依頼している新潟市のBM&W株式会社と共にクライアントの課題解決にあたっている。「地元企業の皆さんはフットワークがいい。製造現場は昔から使っている機器が多いですが、それらをデジタル化したいという話は多いですね。また、逆に最先端のラインを持っている大手自動車メーカーや、大手食品メーカーからも依頼をいただいています。自動化といっても、人の目で確認する部分は残っていて、職場環境の改善のために、その確認作業を当社のシステムで効率化したいという依頼です」。
今年度からはNICOのベンチャー企業創出事業で、移動式AIカメラ搭載ロボットの開発を開始した。「例えば検品で、AIが判断できなかったものを、ロボットを遠隔操作してモニター越しに人が見てチェックできるようなシステムを作りたい。工場の情報をクラウドに保存することには成功しているので、今度はクラウドから指示を出せるようにしたいと思っています」。
まずは、支援を活用してデモ機の完成を目指す。「私たちは現場の本当の課題は分からないのですが、デモ機を見せると皆さんから“これはあの課題の解決に使える”と、想定外の使い方を提案してくれる。そうすることで本当のマッチングができると感じています」。
高専発ベンチャーについては「高専は学生も若いので大学ほど技術力を深められませんが、それが逆に社会実装に近いのではと感じています」と話す矢野代表。「全国規模の施工業者さんからの業務提携のアプローチをいただいているので、事業を全国に広げる道も見えそうです。次のステージは、いま開発しているロボットの実用化。それが出来ると世界と勝負できるようになる。今回のインテグライシステムの開発には4年かかっていて、始めた当時はAIよりセンサーだと言われていました。ロボットの実用化も今開発を進めることで、時代に間に合うと考えています」。
矢野代表の教え子であり、一緒に起業したモンゴル出身のオドンメチドさんとバヤルバトさん。現在はそれぞれ東京の大学に進学しているが、引き続き開発などを担当する。
※レトロトランスフィット: 長年稼働する製造機器の精度や性能を復元したり、デジタル管理装置を導入して自動化を図るなど、既存機器の性能を技術革新で高めること。
企業情報
株式会社IntegrAI
〒940-8532 長岡市西片貝町888
(長岡工業高等専門学校 内)
E-mail info@integrai.jp
URL https://integrai.jp/