東北大学 金属材料研究所 産学官広域連携センター

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2019年05月31日
NICOpress164号新商品・新技術開発補助金

『産業は学問の道場なり』その教えをいま実践する

東北大学 金属材料研究所 産学官広域連携センター センター長 教授・工学博士 正橋 直哉 氏
センター長 教授・工学博士 正橋 直哉 氏

「新しいチタン合金は、チタンやスズを何%ずつ混ぜたら出来るというものではなく、熱処理や結晶の揃え方、組織を変えるなど無限の組み合わせがあるものを研究者の経験と知識で可能にしています。日本が世界の中でプレゼンスを維持するには、そうした知恵と技術が重要だと思います」と話す正橋センター長。

金研が設立した産業支援拠点 産学官広域連携センター

東北大学金属材料研究所(通称:金研)は、設立103年目を迎えた国内屈指の金属研究拠点。30の研究室があり、それぞれに磁石、生体材料、3D粉末造形など多彩な最先端研究に取り組んでいる。実用化事例も多数だ。
同研究所では、13年前から産学官連携を推進するセンターを附属組織として設置し、企業との連携に力を入れている。立ち上げのきっかけは、国立大学の独立行政法人化の際、国から大学の社会貢献を求められたことにある。「金属材料研究所の創設者である本多光太郎先生は、学問のための研究と同時に社会に役立つ研究を強く意識され、『産業は学問の道場なり』という言葉を残されました。金研ではその教えに立ち返り、積極的な企業支援に取り組んできました」と、正橋センター長は話す。
平成18年、金属加工の中小企業が多い大阪府との連携事業として教員が常駐する大阪センター※を開設。現在は仙台、大阪のほか兵庫にもオフィスを構え、あらゆる企業の技術相談にのっている。
「センター所属の研究者は13名。内容によっては東北大学の各部局、さらには他大学の教員にも相談先を広げ、大学の先生の得意分野を活かしながら、企業が求める課題解決や実利につながるようサポートを行っています」。これまで数件の事業化に成功し、試作段階まで進んでいる案件もある。新潟ではミズホ(五泉工場/本社東京都)の新製品開発に協力した。
※大阪府立大学とMOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)と金研の3カ所に設置したオフィスからなる

金属製品

電子ビーム積層造形した金属製品

 

人工股関節ステムのための特殊なチタン合金を開発

医療器具メーカーのミズホでは、従来の人工股関節ステムが手術後に骨萎縮や大腿部痛を生じさせるという課題の解決のため、新たな医療用インプラントの開発に着手。課題の原因は素材の合金の特性のひとつである弾性率が骨と比べて高いことだった。そのため硬い金属の周りでは骨の成長が妨げられ(骨萎縮)、骨の劣化が起こりやすくなる。
課題解決に必要だったのは、体重を支える強度と同時に、骨と同等の弾性率も備え、人体への悪影響もない新素材。そこで以前から交流のあった東北大学医学部を通し、金研に素材開発が依頼された。「研究開発の責任者はチタンの第一人者の花田修治名誉教授です。開発したTiNbSn合金は体重を支える部分は強く、逆に骨に埋め込まれる部分の弾性率は低い傾斜機能特性を持つ、世界初のチタン合金です」。テスト用材料の製造手配から、強度や性能確認のための基礎試験、量産用の材料製造へのアドバイスなど、一貫して開発を支援した。

 

県内企業との連携事例「人工股関節ステム」の開発~事業化

傾斜機能化人工股関節ステム

傾斜機能化人工股関節ステム

新素材チタン合金を採用した「傾斜機能化人工股関節ステム」。AMED医工連携事業化推進事業(平成26~28年)の採択を受け、共同体を組織して製品化を進めている。 開発製造はミズホが中核となり、材料の加工では県内企業が関わるほか、東北大学病院、新潟工科大学など複数の機関が連携する。NICOは事業管理機関として研究体制をコーディネートし、事業化に向けた支援を行っている。 現在、医療機器承認申請中で、承認後に上市予定。高齢化社会の進行や、患者の生活の質向上が求められるなか、この製品への期待は大きい。

 

 

企業担当者のコメント <ミズホ株式会社 五泉工場>

材料面に関して全面的にバックアップを頂いた東北大学金属材料研究所との連携がなければ、開発は困難でした。中小企業だけで行えることは限られているため、日頃から大学や研究機関には色々な相談に乗って頂いています。
新材料を医療用インプラントに用いるため、治験の実施をPMDA(医薬品医療機器総合機構)から求められました。弊社としては現行法で初の治験実施となり、治験に関わる各企業との折衝や病院関係者への説明など、未経験の作業ばかりで多くの困難に直面しました。東北大学金属材料研究所をはじめとした複数機関とコンソーシアムを組むことで経済産業省の委託事業に採択され、治験も実施することができ、なんとか完遂の目処が立ちました。

 

 

企業の人材育成にも 大学がサポートできれば

金研では、近年は自動車などの軽量化に伴い、樹脂やプラスチック、ファイバーと金属とのアッセンブリングの共同研究も行われているという。
一方で、産学官連携には多くの課題もあると話す。「どの大学も悩んでいるのは、先生方は研究成果を早く学会や論文で発表したいが、それをすると公知となり、新規性の喪失になってしまうということ。企業側は特許が取れないと、知財としての価値を見出せなくなる。また、大学は国から論文や学会発表等の研究成果も求められています。実はそこに矛盾が生じていて、悩ましい状況ですね」。産業側もその事情を理解し、コミュニケーションを密にして、特許を出すタイミングなどを計っていくことが重要だ。
同センターへの相談件数は毎年数百件に及ぶ。最近は社員への金属についての講義依頼も増えているという。「私共への相談が途切れないのは日本で金属研究をしている研究室が減っていることも理由。そういう点では企業の人材育成も大事です。我々が出向いて講義をすることも可能ですし、毎年夏には金研夏期講習会を開催し、昨年は企業からの41名を含め59名にご参加いただきました」。
センター設立によって、企業側は金研に相談しやすくなり、大学側は産業の現状を学ぶ機会を得たという正橋センター長。新潟の企業にも相談があれば、まずは気軽にメールで問い合わせていただければと呼びかけている。

 

本多記念館
本多記念館
金研の足跡、成果を知ることができる「本多記念館」。リケン(柏崎市)が製造するピストンリングの一部に金研の発明した材料が使用された。
 

 

連携のポイント

  • 中小企業が相談できる常駐機関を設置し、センターを拠点に産・官へ積極的な働きかけを行う
  • 金研だけでなく部局や大学の垣根を超えた協力体制づくり

企業情報

東北大学 金属材料研究所 産学官広域連携センター

〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1
TEL.022-215-2117
URL http://www.imr.tohoku.ac.jp/

東北大学の附置研究所の一つで、創立当初から産業界と深い連携を保ってきた研究拠点。金属をはじめ、半導体、セラミックス、化合物、有機材料、複合材料などの物質・材料に関する研究を手がける。新材料の工業化、民間企業への技術指導や共同研究を通じて産業貢献に努めている。

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