ミノル製作所株式会社【若手職人を育成し技術を次世代へつなぐ】

  • LINEで送る
  • Facebook シェア
2023年02月08日
NICOpress186号人材育成

”へら絞り“の技術を未来へつなぐため若手育成に情熱を注ぐ

ミノル製作所は金属加工技術の一つ「へら絞り」を主に手掛ける金属加工業者。燕三条地域で職人が減少し、技術が継承できなくなることに危機感を持った本多代表が立ち上げた。若手職人の育成に力を入れるとともに、若者が働きやすい職場環境を整え、人材の雇用と定着につなげている。

ミノル製作所株式会社 代表取締役 本多貴之 氏

本多代表(右から2番目)と、日々挑戦を続けている若手職人たち。「職人を一人前に育て上げるには、経営者側の心構えがしっかりしていないといけません。1期生の2人は職人として十分やっていけるまで成長してくれましたが、ここから1~2年は依頼された仕事を100%できるところまでレベルを上げていく、その最終段階に入っています」。

後継者不足の現状に危機感
若手育成のため会社を設立

へら絞り加工を主力とする金属加工業者のミノル製作所は、父の仕事を継ぎ、へら絞り職人として20年以上の経験を積んでいた本多代表が2016年に設立。その背景には同業者が抱える深刻な後継者問題があった。

現在、燕三条地域でへら絞りを行う会社は10社程しかなく、そのほとんどが後継者がいないという状況。しかも70代、80代の職人がほとんどだという。「10年くらい前は私が一番の若手。年配の職人が辞めていった影響で私に仕事の依頼が増え、ついにキャパオーバーする状況になったとき、この地域の将来について不安を感じました。また、私の息子が小学生のとき、“将来自分もお父さんの仕事をやりたい”と言ってくれたのですが、子どもがあと十数年成長する間に年配の職人がいなくなり、自分しかこの仕事をしていなかったら、子どもに技術を引き継ぐ環境が無くなってしまう。そうなる前に、この技術を何とか継承していかないといけないと思ったのです」と話す本多代表。そこで若手職人を育てることを決意し、会社の設立とともに人材を募集。全く経験のない20代、30代の2人を採用し、自ら技術の指導にあたった。

へら絞りを行う海藤さんと渡邉さん。「へら」と呼ばれる金属の棒を使い、てこの原理を利用して金属板を金型に合わせて成形していく。

 

育成には先行投資が必要
技術の習得や人間性の成長も

へら絞り加工とは、金属板を旋盤へ取り付けて回転させた状態で、専用のへらを押し当てることで金属を引き伸ばすように成形していく加工技術のこと。手作業による加工のため、繊細な技が必要とされる。「私は父から“見ていれば分かる”と言われたけど全く無理で、ひたすら練習して覚えるしかなかった。2人にも、失敗をしてもどんどん練習をさせて覚えてもらうしかないと思いました」。

会社設立後2年間は新規の依頼を受けず、本多代表が以前から受けていた仕事をこなしながら若手の指導に注力。その後、現場を離れ、育成や経営に集中してきた。起業前に用意した運転資金を育成の先行投資に使おうと計画し、練習のための材料費にも惜しみなく使った。「2人が同時に入ってくれたのは嬉しかったのですが、投資も当然2倍かかります。それでも1枚500円くらいする材料を十分に用意して、練習に使ってもらいました。経営者としては商品にならないものにお金をかけるのは良くないですよ。でも彼らには時間がないのだから、私に遠慮せずに練習して、もっと技術を高めてほしいと思った。それでも最初は遠慮してしまうので、彼らにそこを乗り越えさせるのが大変でした」。

また、同社では社員に対して3回の面接を行う。1回目は入社時の面接。2回目の面接では、へら絞り職人、機械オペレーターのどちらを希望するかを聞き、3回目の面接では、将来独立するか否かを聞く。独立を目指す職人には経営のノウハウについても教えていくという。

こうして育成に注力したことで若手職人たちは日々技術を高め、商品として製造できるレベルまで成長。また、主に扱っていたステンレスや鉄などの硬い金属だけでなく、銅やアルミなど柔らかい金属の加工もできるようになりたいと、燕市内の鎚起銅器メーカーに自主的に通い、銅の加工技術を学んでいる。さらに、燕三条地域で開催される「工場の祭典」では、社員たちが主体となって対応するなど、さまざまな経験を通して自主性や人間性の面でも成長してくれたという。

厨房用品の加工依頼が多い同社。主に扱うステンレスや鉄をはじめ、銅、アルミなど、様々な素材に対応できるように、職人たちは練習を重ねている。

 

職人一人一人にお客様がつく
頼られる会社にしたい

手仕事の技術継承を図る一方、同社は自動研磨機やスピニングマシンなど各種加工設備も備え、社内で一貫加工ができる体制を整えている。「燕は昔から分業制で、何社かで分業することで難しい仕事や納期にも対応できていました。でも今はこの分業制が崩れてきて、我々が加工したものの次の工程を協力工場に依頼したくても、その工場がしっかり技術を継承していないと、大量の発注に対応できないこともある。そうすると仕事がスムーズに流れていきません。そこで自社の商品を欠品させないため、自分たちでできる仕事があればやろうということで、3年前から機械加工も取り入れました」。

また、職場の環境改善にも力を入れており、社員からの要望を受けて工場内にエアコンを設置。福利厚生として新潟県「ハッピー・パートナー企業」の認定も取得した。「一生のほとんどの時間を過ごす場所なのだから、環境を整えるのはとても大切なこと。また、若い人を採用するのであれば、男性も気兼ねなく育児休暇が取れるように、会社として支援する必要があると思います」。

2019年には初めてのオリジナル商品として、店のディスプレイ用に適した「シンクロアート」を発売。さらに、へら絞り技術を用いたキャンプギア用半製品の販売も始めるなど、自社商品の開発にも意欲的に取り組む。「これまでは受託した仕事をこなす状況で、お客様から直に声を聞くことがなく寂しいと感じていました。これからはBtoCの商品展開など新しい挑戦も続けながら職人一人一人にお客様がつくような、頼られる会社になりたいと考えています」。

今後は若手職人のさらなる技術レベルの向上を図るとともに、若者の雇用にもつながる環境整備を進めていきたいと言う本多代表。若手を育成するという覚悟と惜しみない投資。その結果が今、同業界の未来を明るく照らしている。

ブランク加工から成形、トリミング、研磨、溶接まで、同社で受注した製品については社内で一貫加工ができるように、各種機械を揃えている。中ロットまでのスピニング加工も可能だ。

 

へら絞り加工の半製品を、オンラインショップで販売。フライパン・鍋・焚き火台など、オリジナルのキャンプギアを作ることができると好評。

自社商品「シンクロアート」。店舗のディスプレイに利用され、独特の動きで展示品の注目度を高める。

 

ポイント

  • 若手職人を育成するために自身は現場を離れ、指導とマネジメントに注力。一から技術指導を行う。
  • 育成のための投資を行い、若手職人が技術の習得に集中できる練習期間、材料を確保。
  • 職場の環境整備や福利厚生の充実を図り、若者の雇用につなげる。

 

企業情報

ミノル製作所株式会社

燕市小高995
TEL.0256-47-1364
URL https://minoruseisakusyo.jp/

メルマガ・SNS


ページトップへページトップへ
NICO 公益財団法人にいがた産業創造機構

法人番号 7110005000176

〒950-0078
新潟市中央区万代島5番1号
万代島ビル9F・10F・19F(NICOプラザ11F)

TEL 025-246-0025(代)
FAX 025-246-0030
営業時間 9:00~17:30
(土日・祝日・年末年始を除く)