支援環境が整うことで学生世代の起業家は増えていく
新潟大学でアントレプレナーシップ(起業家精神)育成を目指した実践ゼミを展開している伊藤准教授。伊藤ゼミからはビジネスプランコンテストの入賞者が次々生まれ、実際に起業した学生もいる。民間スタートアップ拠点をはじめとする起業・創業支援によって、学生世代による起業への動きはさらに活発化すると、伊藤准教授は期待を寄せている。
「近いうちにベンチャーファンドの設立も実現させたい。『起業部』がある九州大学には起業チームを支援するためのベンチャーファンドがあります。資金は企業の寄付。九州だけでなく、東京の企業も出資しています。それを新潟にも作りたいと思っているところです」と話す伊藤氏。
起業したい学生は毎年一定程度必ずいる
新潟大学経済学部の伊藤ゼミは、競争率が4.5倍という学内屈指の人気ゼミだ。ゼミでは起業アイデアを持つ学生チームが、企業とコラボしながら商品化や事業化を進めている。全国規模のビジネスプランコンテストで優勝する者、実際に起業する者など、さまざまな成果が生まれている。
伊藤准教授がこうした実践的なゼミに取り組むことになったきっかけは、研究のために訪れたアメリカ・シリコンバレーの大学の教育。「地域と連携した起業家育成教育に衝撃を受けました。起業家を育てるには大学単体では無理で、地域との連携が不可欠。新潟大学はもちろん、日本でもそうした教育の事例がありません。どうしてもやりたいとゼミを始めました」。
ゼミ生が実績を作り始めると、起業したい、実践的なマーケティングを学びたいという学生がさらに増えてきた。「ゼミは受け入れる人数に限りがあるのですが、やる気がある学生をそのままにするのはもったいない。そこで、ゼミ以外の学生が参加できる『ベンチャリング・ラボ』も立ち上げました。経済学部だけでなく、歯学、工学、さらには他大学からも学生が集まっています。
いままで新潟大学の学生が起業する事例が無かったのは、そういう文化が無いのだと思っていたのですが、そうではなく起業したい学生は毎年一定程度いる。これまではひとりで考えているうちにフェードアウトしていっていたんですね。そうした人たちが仲間と出会い、活動し、情報を得るきっかけとなる場を作りたいと考えています」。
研究室のサテライト拠点で地域・企業との連携を図る
新潟県の開業率の低さも、原因は環境にあるという。「新潟は民間や個人でスタートアップやアントレプレナーをキーワードにした取り組みがあちこちにある。その点在しているものを束にすれば相当な規模。だからこそ、それらを繋ぐ仕組みが必要だったんです」。
今回、新潟県が取り組む創業支援体制との連携を図る中で、研究室の課題も解消していきたいと伊藤准教授は話す。「学生と起業家支援をしたい人が自由に交流できる場所が欲しいのですが、学内に作るのは難しい。ならば、こちらから外に出ようと考え、民間スタートアップ拠点のスナップやMGNETと共同研究契約や連携を図ってサテライトラボを開設しました。地域に出て、学生が起業家になっていくプロセスを支援していきます」。
民間企業や連携先と起業家たちがつながりやすくなるサテライトラボは、新潟のスタートアップのエコシステムを作るためにも重要な役割を担っている。「スタートアップエコシステムが出来る要件は、多様な支援者がいること、全体に意見するような立場の管理者がいないこと、県内にも市町村によって産業の特色があるように各地域の特色がしっかりしていること。実は新潟には、すでにその要素が揃っています。しかし、問題はそれらが繋がっていないこと。ネックになっているのが大学なんです。大学がそれらの要素や知識を繋ぎ合わせる役目をすれば、シリコンバレーのようになっていきます。ただ、新潟大学の周辺環境には企業が集積する余裕がない。そこで、サテライトを県内に増やし、小規模なスタートアップ支援の連携体制から作っていきたいと思っています」。
“今できること”から働きかけることで新潟の起業は活性化する
現在、研究室ではひらせいホームセンターの事業課題に対して学生が解決提案をする『ひらせいプロジェクト』や、苗場酒造とコラボして日本酒ギフトを開発するチーム『にゅーふぇいす』のプロジェクトなどが進行している。学生を支援する新潟の協力企業の数は年々増加。コラボ成功のカギを握るのは、企業側の意識の在り方だ。「皆さん社長レベルで対応し、社員に対する以上に厳しくフィードバックをしてくださる。学生もそれを期待しています。志を持った学生たちが、社会でイノベーションを起こせるように支援したいし、その熱量、ベクトルを理解してくれる新潟の企業が増えてほしいです」。
スタートからゴールまでを見守ってもらえる環境が整うことで、今後は起業家が次々と出てくると話す伊藤准教授。「起業といえば、達成目的を決めて、そこに向かってどうするかを考える“目的ありき”のプログラムが主流でしたが、実は成功した起業家の多くが、逆の考え方をしていることが発見されました。今できることの中から何ができるか、という“手段ありき”のスタンスです。まず手持ちの駒で何ができるかを想定し、そのうちのどれかに突き進む。すると手持ちが増えて、より具体的に何が出来るかが分かってくる。実は新潟の成功した起業家も、皆さんこの思考なんです。東京は“目的ありき”でもいいと思いますが、地方は逆の発想の方が良い可能性があります。そのとき、起業家の悩みに対して「それならここを繋げると解決しそうだ」と解決に向けて周囲と連携させる機能が必要で、それはまさにスナップの逸見社長がやっていること。この考え方で、新潟で起業家が生まれやすい環境になっていきそうだという期待がありますね」。
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