株式会社第一測範製作所【オンライン時代にあえて「足で稼ぐ」。現地で人間関係を築き、戦略的な新規開拓へ。】

2026年07月21日
NICOpress206号海外展開補助金

オンライン時代にあえて「足で稼ぐ」。
現地で人間関係を築き、戦略的な新規開拓へ。

1944年に創業した第一測範製作所は、ねじなどの製品が規格どおりに作られているか判定するゲージや、計測機器、空気・電気マイクロメータなどを製造販売する老舗メーカー。80年以上にわたり蓄積した高精度加工技術により生み出される製品は、自動車をはじめとする幅広い産業分野で活用されている。

営業部 海外営業グループ リーダー 稲餅拓也 氏
代表取締役社長 木村敬知 氏
営業部 海外営業グループ リーダー 稲餅拓也 氏

「ベトナムは若手と接する機会が多くフレンドリーな雰囲気。逆に中国・韓国は年功序列で、立場が上の人と会い、お酒を酌み交わす文化が残っています」とお国柄の違いを語る稲餅氏(本社ショールームにて)。

顧客の海外シフトを背景に海外展開を本格化

第一測範製作所の海外展開は1970年代以降に本格的に動き出した。きっかけは、国内の主要顧客である自動車メーカーや家電メーカーが製造工場を中国や東南アジアなど海外へシフトし始めたことにある。同社は中国・タイにゲージ類の販売拠点を設け、韓国では現地でゲージや精密測定機器の製造販売を担う合作会社「韓国一測」を設立した。

販売拠点のある中国、タイ、韓国に続き本社主体の海外へのアプローチを強化するため、海外営業の経験がある稲餅氏を実働メンバーとして抜擢。人口が多く、日系企業の進出が相次いでいたベトナム市場をターゲットに見据え動き出そうとしたところ、「いざやるぞというタイミングでコロナ禍になってしまって。ゲージを扱うベトナムの販売店に1件1件電話をかけ、オンラインで交渉しました。海外渡航が禁止になる直前に1度だけ現地を訪問し、販売店契約を正式に結ぶことができました」。

同社が製造販売するゲージは純粋な消耗品ではなく、顧客工場の新規ライン立ち上げなどの際にニーズが発生する。そのためタイミングを逃すと他社に注文が流れてしまうリスクがあるという。「先週来てくれれば良かったのに」と言われることもあり、国内・海外問わずまめな定期訪問が欠かせない。訪問が途絶えると顧客の記憶から徐々に薄れ、競合他社が自然とその空白を埋めていく。信頼とは積み上げるものであり、空白期間は取り戻すのに何倍もの労力を要する。「コロナが明けた頃にNICOの海外展開助成金の話を聞き、これは有効だと思い活用させていただきました。この助成金がなかったら、月1回のベトナム訪問の頻度が半分以下に落ちていたと思います」と稲餅氏。

現地顧客を訪れる際には、自社製品の保守点検も稲餅氏が自ら行うという。同社では、営業職もメンテナンスの知識が得られるよう学習機会が整っている。製品の知識があるからこそ顧客のニーズを聞き出すことができ、その場ですぐに解決できないとしても、持ち帰って社内で検討しより良い提案に繋げている。

海外展開では知財面の問題も起こりやすい。「ISSOKU」を名乗る模倣業者に遭遇したこともあったが、稲餅氏は「真似されるのは有名になった証拠。偽物でクレームが来たとしても『本物を使ってみて』とPRするチャンスに変えています」とポジティブに語る。その自信は簡単に真似できない高い品質に裏付けられている。

空気・電気マイクロメータ デジタル表示ユニットSmp

▲空気・電気マイクロメータ デジタル表示ユニットSmp

非接触でワーク(加工品)を計測できる空気・電気マイクロメータ。ワークを決まった場所に置くだけで誰でも簡単に測定でき、ワークも傷つけないと海外でも好評。

主力製品のねじゲージ

▲主力製品のねじゲージ

 

中国上海での展示会の様子

中国上海での展示会。高度な技術を用いた最先端のゲージに注目が集まった。

 

柔軟性のある若手スタッフに営業・提案スキルを教育

ベトナム市場の開拓に関して、オンラインではなく毎月の現地訪問にこだわるのには、営業機会の損失を防ぐ以外にも二つの理由がある。一つは、現地スタッフの育成だ。稲餅氏は、顧客の工場を訪問する際、現地販売店の若手ローカルスタッフをあえて同行させ、自らのヒアリングやメンテナンスの様子を見せることで、経験を積ませている。「ベトナム人はフレンドリーな一方で、自尊心が高いと感じます。叱ったりけなしたりせず、いいところを見つけて『すごいじゃん、さすがだね』と声をかけると、喜んでさらに頑張ってくれます。私が一言も発しなくても顧客の課題を聞き出し、提案して話をまとめてくれた時には、成長を感じて頼もしく思いました」。木村社長も「海外展開は単に営業するだけではなく、現地スタッフの教育が重要。いずれは現地スタッフだけで営業が回るような継続性を実現したいと思っています」と語る。

二つ目は、ベトナムのローカル企業の新規開拓だ。海外売上比率を伸ばすために同社がターゲットとしているのは、既存顧客である日系企業に加え、「日本の資本が入っていない、ねじ1個、ボルト1個を作っているような小さな町工場」だという。そうした会社は日本製の高品質・高精度のゲージをまだ知らず、大きなチャンスが眠っている。現地に足繁く通い、ローカルスタッフから情報を得なければ、そのような会社と接点を持つことは難しい。いわば、ピラミッドの上下両方から攻めることで、海外売上比率の増加を戦略的に進めているのだ。

製品の修理をベトナム人スタッフにレクチャー

稲餅氏の誕生日を現地の販売店が祝ってくれた時の様子

製品の修理をベトナム人スタッフにレクチャー。将来的に現地で営業を担う人材を育てている。右は稲餅氏の誕生日を現地の販売店が祝ってくれた時の様子。

 

翻訳アプリを使わないコミュニケーションで距離を縮める

稲餅氏が大切にしているのは、ベトナムの顧客や現地スタッフに「同じ課題を解決するパートナー」として接することだ。「ただ売れれば良いという提案はしません。単なるビジネス上の取引先ではなくパートナーとして、現地スタッフと一緒に顧客の本音や課題を掘り下げます。図面を広げながら顧客が『どこを測りたいのか』を確認し、それならあの製品が最適だといった、双方がWIN-WINになる提案をします。良い提案ができれば、顧客工場の別の部署に話が広がることもあります」。商談の後は顧客や現地スタッフとランチに屋台のローカルフードを味わったりとフランクな関係を築く。会話は英語だが、翻訳アプリは使用しない。「翻訳アプリを使うと、コミュニケーションの一番大事な部分を省いている気がするんです。お互いに拙い英語でも、ジェスチャーや単語の言い換えで頑張って伝え合うことで『こいつは面白いやつだ』と素直に思えますし、より相手と仲良くなれます。どこの国であっても、人との繋がりは商品を売る以上に大切です」。

今後はメキシコ、インド、韓国、アメリカの市場開拓に力を入れる方針だ。オンラインの時代にあえて足で情報を稼ぎ、現地の実際の状況から判断する手法を貫く同社の今後に注目したい。

本社ショールーム

本社ショールーム

各種計測機器やマイクロメータなどの製品が並ぶ本社ショールーム。「より早く、より正確に」という顧客の要望に応え、ワークの複数カ所を同時に測定できるようにするなど付加価値を高めた製品を開発してきた。

 

海外進出のPOINT

  • 現地スタッフとの密なコミュニケーションで対等な信頼関係を築く
  • 信頼関係から得た情報で、未知のローカル企業を開拓
  • 現地スタッフを教育し、現地に行かずとも商談が回る体制の構築を目指す

 

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株式会社第一測範製作所

小千谷市大字坪野826番地2
TEL.0258-84-3911
URL https://issoku.jp

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