活用事例

航空機エンジン用ブリスク(一体翼)の恒温鍛造技術開発

利用制度

平成30年度次世代産業技術創出支援事業(NICO)、令和2年度~令和4年度戦略的基盤技術高度化事業(経済産業省、サポイン)

企業情報

株式会社遠藤製作所

〒959-1289 燕市東太田987番地

◇背景、会社の戦略、技術的課題

(会社の背景・経緯)

・株式会社遠藤製作所(以下、遠藤製作所)は、ゴルフクラブや自動車部品などの金属製品を製造し国内外に販売している企業である。遠藤製作所では主に鍛造と呼ばれる、金属材料にハンマー等で力を加え、指定の形状に成型する手法で金属加工を行っている。

・遠藤製作所では、この技術を既存の製品以外にも展開しようと、航空機産業分野への進出の取組を長年にわたって進めてきた。航空機産業では、製造技術のブラッシュアップはもとより、品質マネジメントシステムの取得などの体制面の整備も大きく求められる。同社はそれらの要求に対して根気強く取り組むとともに、独自のネットワークを活用し、大手重工メーカーとの研究開発を継続的に進めてきた。今回の次世代産業技術創出支援事業(以下、次世代助成金)、そして経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(以下、サポイン事業)での取り組みも、航空機向け部材の新たな受注に向けた技術開発を目指す狙いであった。

(経営戦略・ねらい)

・航空機向け部材の市場においては、今後20年で航空機のニーズは2倍以上に増加し、航空機の小型化、軽量化のニーズがさらに高まると予測されている。重工メーカーと意見交換を行う中で、遠藤製作所のこれまでの知見がフル活用できるテーマとして、航空機エンジン用一体翼(ブリスク)の鍛造に着目した。

・従来のブリスクは、円盤状の大きな素材から切削加工で削り出して製造していた。この場合、加工に要する時間が長く、材料の廃棄率が高いことがコスト面の大きな負担になっていた。一方で、鍛造を応用した新技術では、まず円盤状の素材を鍛造で加工して、製品に近い形状(ニアネットシェイプ)まで変形させた後、切削加工により形状を整える。この技術によって、従来の材料費と切削加工時間が大幅に削減されるため、今後の航空機市場のニーズを満たすキーテクノロジーになりうると期待されている。

(技術的課題)

・鍛造技術によって、コスト削減に大いに貢献できる期待はあるものの、実現に至っていないのには訳がある。それは、鍛造で用いるプレス機の大きさである。世界でも限られた数しか存在しない超大型のプレス機が必要だったのだ。そこで、比較的小さなプレス機でもブリスクの鍛造加工ができるように、恒温鍛造の技術を利用して、成型性を改善させる取り組みを計画した。この計画の実施に当たっては、研究要素の多さと難易度とを鑑みて、数年に渡る計画が立てられた。NICOでは、平成28年に高付加価値サポート助成金(現:イノベーション推進事業(助成金))にて研究開発の支援を行うなど、段階的にサポートを行った。最終的に遠藤製作所は国等の競争的資金の採択を目指すための事前研究として、次世代助成金に採択され、同社は競争的資金申請に必要な研究を、この事業を利用して平成30年7月から7か月間にわたって実施した。

◇次世代補助金での実施内容

・次世代助成金では、まず開発の方向性を決めるために不足しているエビデンスを充実させるため、鍛造試験を実施した。鍛造試験では、金型形状や材料を加熱した際の加工特性の評価、加熱方法の検討が進められた。次世代助成金、そしてサポイン事業の中心的な役割を担当する遠藤製作所の執行役員で、医療機器・新分野事業部の近藤部長は、「航空機産業には、以前、海外のエンジンメーカーからの依頼で、鍛造部品のプロジェクトに取り組んだことがあり、当社の鍛造技術や経験を用いて参入できる分野だと認識していた。ブリスクは最新のエンジンに採用されている新しい構造の製品で、事業化のハードルは非常に高いが、共同開発の話をしてくれた国内重工メーカーの協力があれば、技術開発、製品化が可能だと判断した。振り返れば、サポイン事業を申請するにあたり、次世代助成金での先行研究が役に立った。開発する技術や事業化の可能性などの課題が明確になり、スムーズに申請書を作成することができた」と話す。

◇サポイン申請~採択~実施

・試験と平行して、その後の研究計画の検討も進め、競争的資金への応募に向けた申請書類のブラッシュアップなども行った。応募する競争的資金をサポイン事業に絞ってからは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)から申請書の作成にあたってのアドバイスを受けるなど、社外リソースを活用しながら進めることができた。当時アドバイスを行った中小機構のチーフアドバイザーは当時を振り返り、「大手企業との共同研究をスタートとして、開発・試験を継続し、開発技術の一部を特許化している点、平成30年度NICO次世代助成金に採択され、Φ500のニアネット鍛造ブリスクを開発するなど基礎的な研究を進めている点が良かった。」と述べている。

・積み上げてきた研究の結果を基に、令和2年度のサポイン事業へ申請し、見事採択に至っている。サポイン事業では、次世代助成金の内容から、川下企業のニーズにさらに近づけ、コストと性能を両立させたブリスクの開発を進めている。

次世代助成金サポイン事業の実施までを振り返り、近藤部長は言う。「研究開発をはじめ、事業を進める中で様々な困難にぶつかることがある。県内企業のNICOの活用法として、『まずはNICOに相談しよう!』と言いたい。企業によっては限られた情報の中で決断をしなければならない場面も多いと思うが、民間企業、行政、教育機関、研究機関など、幅広いチャンネルとの接点があり、そのような関係機関との豊富な経験が、困りごとのある県内企業に突破口となる提案を示してくれると思う」。

・遠藤製作所は、NICOの助成金、国等の競争的資金や開発アドバイザーなど外部リソースを上手に活用して製品、技術の開発を行うお手本のような企業と言える。これからも遠藤製作所の事業展開に期待したい。

 

〇NICOの次世代産業技術創出支援事業はこちら(リンク

〇NICOのサポイン支援についてはこちら(リンク

〇NICOのイノベーション推進事業(助成金)はこちら(リンク