活用事例

糖尿病網膜症スクリーニング診断支援システムの開発

眼底の網膜写真の一例
利用制度

平成30年度次世代産業技術創出支援事業(NICO)、令和元年度~令和2年度戦略的基盤技術高度化支援事業(経済産業省、サポイン)

企業情報

株式会社オーヒラ

〒949-7135 南魚沼市新堀新田629-961

◇背景、会社の戦略、技術的課題

(会社の背景・経緯)

・株式会社オーヒラ(以下、オーヒラ)は、眼科用医療機器の検眼機器(細隙灯顕微鏡)の製造販売を通じて、国内外の医療関係者から高い評価を得ている南魚沼市の企業である。

・オーヒラでは、これまでの医療機関とのネットワークや検眼機器の製造販売を通じて得た知見を基に、新たな眼科用検査機器の開発の構想を温めていた。その一つが、NICOの次世代産業技術創出支援事業(以下、次世代助成金)を活用し、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(以下、サポイン事業)で開発中の糖尿病網膜症診断支援システムである。糖尿病は、緑内障に次いで失明原因の第2位であるが自覚症状がないため、早期発見による早期の治療開始が求められている。

(経営戦略・ねらい)

・健康診断において、糖尿病網膜症のような眼底疾患を診断する場合、一般的にはまず眼底写真(目の奥の網膜画像)を撮影し、異常の有無を内科医および眼科医などが判定している。健康診断では、多量の眼底写真を確認する必要があり、眼科医がそれに十分な時間を割くことは難しく、検眼機器に関して幅広いネットワークを持っているオーヒラは、従来からそのような現場ニーズを把握していた。オーヒラでは、これらの課題を解決する「糖尿病網膜症診断支援システム」の製品化に向けて5年間の開発計画を考えており、平成29年度にNICOの高付加価値化サポート助成金(現:イノベーション推進事業(助成金))を活用して、製品開発を開始した。

(技術的課題)

・糖尿病網膜症の眼底写真の判定については、日本眼科学会やAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)によるナショナルデータベースの構築などで、判定の手本となる画像の蓄積が進められている。それらを含めた膨大な眼底写真を教師データとしてAIに学習させ、そのAIにより、臨床医による眼底写真の判定前に診断支援を行う装置が「糖尿病網膜症診断支援システム」であり、その開発が、次世代助成金サポイン事業を通じての狙いである。本システムの開発により、糖尿病網膜症の早期発見が促されることはもとより、検査する側の臨床医の負担低減も期待され、最終的には医療サービスの向上につながるという大きなメリットがある。この開発については、撮影した画像を解析するAIの開発が必須であったものの、画像の解析ノウハウを持つ他企業と共同研究体制を構築できたことで、次世代助成金へ応募でき、採択につながった。また、この時構築した共同研究体制には、新潟大学の医師も参画しており、糖尿病網膜症の眼底写真の収集が容易になっただけでなく、AIで判定された結果に対する医師からのフィードバックも反映できる体制となり、事業を進める上で大きな追い風となった。

◇次世代助成金での実施内容

次世代助成金では、撮影するためのカメラの小型化・高性能化、画像処理システムの開発を行った。眼底画像の分類は、単純に病理がわかればよいというものではない。病理を判定するために、画像の中から血管の検出や、そこからの出血の検出など、多岐にわたる種類の画像が必要であり、それを分類するためのラベル付け(アノテーション)など気の遠くなるような作業が必要であった。それを今回は新潟大学と協力しながらAIにより判定させる取り組みを行った。そして、判定されたものに対して、新潟大学より指導を仰ぎ、判定精度の向上に努めた。また、眼底画像を撮影するためのハードウェアであるポータブル眼底カメラの開発についても、試作品の製作を行うなど、同時並行で進めた。次世代助成金からサポイン事業を通じて中心的な役割を担当してきたオーヒラ池田部長は当時を振り返り、「製品開発において、地域連携が大事な観点と考え、次世代助成金に応募した。NICOの事業に採択されたことで、研究の推進はもとより、金融機関からの信頼も増し、スムーズに支援してもらえる機会が増えるなどのメリットも感じられ、利用して良かった」と話す。

◇サポイン申請~採択~実施

・次世代助成金での研究と平行して、国等の競争的資金への応募に向けた申請書類のブラッシュアップも行った。国等の競争的資金をサポイン事業への応募に絞ってからは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)から申請書の作成にあたってのアドバイスを受けたり、NICOと申請書内容をブラッシュアップするなど、社外リソースを活用しながら進めることができた。その結果、令和元年度のサポイン事業へ申請し、見事採択に至っている。当時アドバイスを行った中小機構のチーフアドバイザーは、「オーヒラの場合は、NICO次世代助成金を活用して、ポータブル眼底カメラの設計試作や糖尿病網膜症の病理学習データの蓄積などを先行して実施していたことと、アドバイザーも交えて想定市場の調査や販売戦略の検討を進めていたことがサポイン事業の申請にあたってプラス材料であると感じた。」と語る。

・採択されたサポイン事業では、次世代助成金の内容から、眼底画像をAIにより判定する技術やポータブル眼底カメラの製品開発など、事業化に向けた開発をさらに進めている。「サポイン制度説明会に参加したことで申請に向けて必要な準備をいち早く明確化できた。また、中小機構を交えた個別相談会にも参加し、申請書の書き方はもちろんのこと、中小機構アドバイザーとの意見交換の中で省庁の立場からの視点を学ぶことができ、結果として申請書に反映することができたので、大変良かった。サポイン事業を実施する中で、技術を省庁に認められた企業と他社から認知されるようになり、企業ブランドが向上していると実感している」と池田部長は話す。

・オーヒラは、自社のコア領域と近年注目されるAI技術とを上手く織り交ぜながら製品開発を進める先進的な事例と言える。また、国内の医療機器商社はもちろんのこと、JICAのプロジェクトを通じて東南アジア地域におけるニーズの調査を行うなど、サポイン事業後の製品の販路拡大に向けた活動も継続している。現在は新型ウイルスによる影響で事業を進める難しさが増している状況であるが、今後世界規模でさらに進むであろう高齢化に対応する先進的な取り組みとして今後も注目したい。

 

 

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