受託製造から提案型ニットメーカーへ進化。
自社ブランドで世界市場を見据える
国内有数のニット産地・見附で、国内外のアパレルブランドから高い評価を受けている丸正ニットファクトリー。後発から業界をリードする存在となった背景には、常に技術力・生産力を磨き、提案型スタイルで他社には無い価値を提供し続けてきた道のりがある。

7代目として「選ばれる会社」を目指してきた佐野社長。「MFUマイスター≪技術遺産≫認証は日本メンズファッション協会からの、産地に向けた応援メッセージだと受け止めています。日々、努力を重ね高い技術力を磨いている従業員全員にいただいたエールなので、皆さまの信頼に応え続ける会社でありたいと思います」。
ホールガーメント編機による無縫製ニットで業界をリード
江戸時代の天保3年(1832)に織物業として創業し、190年以上の歴史がある老舗企業の丸正ニットファクトリー。ニットを手掛け始めたのは昭和57年(1982)で、業界の中では後発組だったという同社だが、現在は国内トップクラスの生産能力を誇る。事業はアパレル会社のOEMを中心に、自社ブランドも展開。2023年には日本メンズファッション協会からMFUマイスター(技術遺産)認証も受けるなど、その存在感を放っている。
強みとなっているのは、確かな技術力による質の高い製品づくりに加え、単なるOEMではなく、顧客に対してもトレンドを先取りした提案をしていくスタイルを取っていること。それを可能にしたのは、商社で商流を学んだ佐野社長が1996年に入社後、問屋や商社を介さず、直接取引する顧客を増やしていったことが大きい。1997年から東京オフィスを開設し、市場の流行や消費者の嗜好などの情報を収集。それを踏まえて、アパレル会社や小売業者と直接顔を合わせ、ニーズとトレンドに合わせた商品開発を行っている。
また、製造面では2004年から「ホールガーメントR横編機(WHOLEGARMENTR)」による無縫製ニットの製造を開始。成型編みやカットソーの製法では、身頃や袖などをパーツごとに編み、ニット生地を裁断し、縫製を行うが、ホールガーメントはその作業が必要なく、ほぼ完成品の状態で編み上がり、製造時間とカットロスを減らせるのが特徴だ。2009年には当時の最新機種MACH2-Sを世界初導入し、ホールガーメント業界をリードするポジションを確立してきた。また、自動編機も140台保有し、あらゆるゲージの編機を完備しているので、どのような編み目の仕様にも対応できる。熟練職人による手仕事、高い効率性を誇る先進設備、その機械の能力を最大限に活かせるエンジニアの存在など、品質と生産力で信頼を築いてきた形だ。

織物業は豪雪地の冬の生業として発展してきた。同社は1832年(天保3年)に見附市で織物業として創業。1982年に織物・撚糸業からニット製品製造へ業態を変更し、1994年に現在の社名となる。2022年に創業190周年を迎えた。

唯一外部委託していた仕上げ部門「整理加工」も、2021年から自社で賄っている。100%内製化できることで生産体制がさらに強化された。

島精機製作所の自動編み機140台、そのうち立体無縫製編み機(ホールガーメント)を50台以上保有。その数は県内トップで、生産能力としても国内トップクラス。裁断と縫製、成型編み、ホールガーメントによる無縫製技術の製法に対応し、あらゆるリクエストに応えることができる。
東京での市場リサーチ
顧客と直接会っての商品開発が強み
メーカーとしては、顧客の発注に合わせたものを作る方が楽なのは間違いないが、それが成り立たなくなっていく時代が来ると分かっていたからこそ、リスクを負いながらも独自のスタイルを確立してきた。
佐野社長は「提案していくスタイルを取っているので、私たちが売れる素材だと思ったら先に材料を確保します。在庫リスクを負う訳ですが、いざ提案して作るとなったら他社よりもスピーディに生産できる。こうした体制であることも私たちの強み」と話す。
品質の良いものがタイムリーに生産でき、なおかつ企画提案も付いてくる。それが、顧客から丸正ニットファクトリーに仕事を出したいと思ってもらえる魅力になっている。提案力を高めるため、自社デザイナーを東京に3名、新潟本社に1名置いているのも強みだ。「提案型の場合はアパレルや小売のお客様と同じ、またはそれより上の目線を持っていなければいけないため、東京のメンバーには常に街に出てリサーチをし、本社に情報をフィードバックすることを伝えています」。
提案型を続けるなかで、会社には企画開発のノウハウが蓄積してくる。それを活かすため、2011年に自社ブランドの「ルーエン ローズ」を立ち上げた。OEMの顧客はレディースアパレルが7割を占めており、自社ブランドを持つとライバル関係になってしまう。そこで打ち出すことにしたのが、高価格のために商社も手を出しにくい内モンゴル産のカシミアを使ったラインだ。





高い縫製技術とトレンドを先取りした企画提案力が強み。ニット製品はリンキング(一目一目つなぎ合わせ縫製する工程)や裁断、縫製など手作業も多いが、確かな技術が受け継がれている。
自社ブランドでの海外展開を次なる目標に据える
「ルーエン ローズ」はカシミヤアパレルメーカー「ルーエン社」とのコラボレーションで誕生させたブランドで、厳選された毛を使用し、軽くて柔らかく、なめらかな肌触りのよさが魅力。ホールガーメント編機で編み立てることで継ぎ目がない分、より一層着心地良く仕上げている。例年、新作は通販会社のショップチャンネルで発表。最高品質の商品をファクトリーブランドだからこそ実現できる価格で提供している。また、将来的にはOEM・ODMと自社ブランドの割合50%・50%を目指している。
佐野社長は海外展開を視野に、イタリア・フィレンツェで開催される糸・ニット素材の展示会PITTI FILATIや、フランス・パリのプルミエール・ヴィジョンなどの国際展示会に2018年から4回出展してきた。しかし、ようやく芽が出てきたと感じたときにコロナ禍となり、ルートが途切れてしまったという。
一方、コロナ禍で流通もストップし、何も仕事ができなかった時期に誕生したのがアウトドアニットブランドのROUVER(ルーバー)だ。「社内公募により意欲的な社員を募り、企画してもらったところ、登山やキャンプを趣味とする社員がおり、上質なニット製品を扱うアウトドアブランドは無いね、ということで形になりました。3年で成果が出なければ終了すると伝えていましたが、2年目から伸び始め、今では首都圏の店舗でも取り扱いが増えています」。
今後は自社ブランドを改めて世界に売っていきたいと話す佐野社長。その方法として、県内の同業他社と連携して、ニット産地・新潟をブランディングして売り込んでいく形も有効なのではないかと考えている。「最初から成功は難しいが、将来的な夢として世界への道筋を頭に描きながら、創業200周年に向けて進んでいきたいと思います」。


2011年スタートの自社ブランド「ルーエン ローズ」。
高級カシミヤを使用したハイクオリティライン。

アウトドアに特化したニットブランド「ROUVER(ルーバー)」。「ROUTE(道)」と「OVER(越後の“越”)」を組み合わせた造語で、『つくられた道を越え、冒険する開拓者のように、好奇心とチャレンジ精神を忘れない』という思いが込められている。高機能素材を使用し、専門ショップでコーナーが設けられるなど、人気上昇中。
企業情報NICOクラブ会員
丸正ニットファクトリー株式会社
見附市新町2-6-8
TEL.0258-63-3213
URL https://marusho-factory.jp/
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