株式会社米谷製作所【金型分野の将来を見据え、培ってきた技術力を武器にギガキャストに挑戦。】

2025年04月21日
NICOpress199号専門家等相談新商品・新技術開発販路開拓(国内)

金型分野の将来を見据え、培ってきた技術力を武器にギガキャストに挑戦。

複数のパーツで構成される自動車部品を、大型のダイカストマシン(鋳造装置)で一体成型することで、部品数・工程数を大幅に削減できるギガキャスト。金型も大型化し、重量物の輸送規制などから国内では難しいとされていたが、米谷製作所はいち早く開発にトライした。金型専業メーカーとして今後の市場を見据えた挑戦について話を聞いた。

代表取締役社長 伊井雅博 氏、取締役相談役 米谷強 氏、営業部 部長 小林理 氏
代表取締役社長 伊井雅博 氏
取締役相談役 米谷強 氏
営業部 部長 小林理 氏

設備の導入や新たな技術への挑戦について米谷相談役は「お客様の常に半歩先を行くことを意識しています」と語る。「金型業界全体を見て、パズルのピースがまだ埋まっていないのはどこか、当社のアドバンテージを生かしてそれを埋められるところがないかを今後も探していきたいと思います」。(左から小林部長、伊井社長、米谷相談役)

きっかけはEV化への流れ
技術交流や協業で市場変化に対応

自動車エンジンや構造部品の鋳造金型の設計製作を主力とし、大手国産車メーカーと直接取引をしている米谷製作所。年間150型以上の出荷実績を持っている。製品の9割以上がエンジン部品用金型だが、欧米諸国や中国がEV(電気自動車)にシフトする流れを受け、2020年頃から事業の方向転換を模索し始めた。

EVは電池そのものが重いという難点がある。車体が重くなると電費が落ちるため、軽量化するニーズがあった。これに対しEV大手のアメリカ・テスラでは、大型部品をプラモデルのようにアルミニウム合金で一体成型することで軽い車体を実現。この技術は「ギガキャスト(メガキャスティング)」と呼ばれている。現行の自動車の車体フレーム(フロントとリア)は約170点の鋼板部品を溶接して作られるが、ギガキャストではわずか2点の部品に置き換えることができる。

小林部長は「日本でEVが普及するかは、正直、未知数なところもあります。エンジンもなくなりはしないでしょうが、右肩上がりではありません。何か新しいことをしなくてはとギガキャストへの挑戦を始めました」と話す。まず2020年12月に大型鋳造部品メーカーのジョージフィッシャー中国(GF中国)と技術交流を開始。また、最大φ2,100×高さ1,700mmを加工できる大型マシニングセンタを補助金を活用し導入。さらに、樹脂用プレス金型を製作する三条市の共和工業との協業をスタートした。米谷相談役は「共和工業さんの得意分野はユニットバスやベンチなどを作るための金型製作で、大型設備も保有しています。しかし金属製品用の金型に関する知見は少ない。当社はその技術がありますが、逆に大型の設備がない。それならお互いの強みを生かして一緒に挑戦しようという話になりました」と振り返る。

製造風景

米谷製作所は鋳造金型の設計・製造、金型の完成度向上につなげる各種解析などにより業界をリード。金型の最終工程は職人の手で磨いて仕上げられる。 また高レベルのQCD(品質・コスト・納期)により競争力を高めている。CAD/CAMといったIT技術を40年以上前から導入し、顧客の高い要求に応える金型を高品質・短納期で製作することで技術と経験を蓄積してきた。

3次元測定機

3次元測定機で製品や金型の寸法を測定し、求められる品質を維持。

シリンダーヘッドなど複雑な形状の部品を鋳造する金型を手がける

シリンダーヘッドなど複雑な形状の部品を鋳造する金型を手がける。

金型は完全3D設計でデータを一元化

金型は完全3D設計でデータを一元化。

 

自社の強みを再検討し受注型から提案型企業へ

ギガキャストへの挑戦が始まったが、日本では生産工場の規模や物流面で多くの制約があり、業界では「国内でギガキャストはできないだろう」という先入観があった。さらに、競合他社がある中で自社の強みについて、いかにアプローチするかも課題だった。「それまでは営業しなくても車のエンジンが新規開発されれば仕事をもらえていました。でも今回はこちらから自動車メーカーに提案する必要がある。悩んでいた時にNICOの『技術提案力向上支援事業』を知り、参加を決めました」と米谷相談役。

BtoBの受注型から提案型への変革を目指す企業をサポートするこの事業は、5回にわたる個別支援でヒアリングや強みの再検討、PRポイントの整理、プレゼンの練習などを行う。「専門家の方が業界の事情をかなり勉強してきてくださったのが印象的でした。厳しい宿題もありましたが、強みをA4のシート1枚にまとめたり、プレゼンで印象に残る話し方を一緒に考えるなど勉強になりました」と小林部長。

支援事業を活用した2022年の翌年には、金型の大規模展示会であるインターモールド展に出展した。メガキャスティングを“ウルトラマン風のロゴ”で大々的に打ち出した共和工業との共同ブースは、インパクト抜群。来場者の注目を集めた。講演したセミナーも予定数の100人が即満席となり、立ち見が出るほど。展示会後はかつてないほどの問い合わせがあった。その直後、トヨタとホンダがギガキャストの導入検討を発表した。「そのタイミングは偶然だと思いますが、自動車メーカーが水面下で研究を進めているとの情報はありました。我々もやみくもにバットを振っていたわけではなく、業界の動向を伺いながら準備を進めてきました。いいタイミングで展示会で発信できたことは大きかった」と米谷相談役は話す。

大型マシニングセンタの工作機械マキノD-2

2022年に大型部品用金型製造に対応する大型マシニングセンタの工作機械マキノD-2を導入。2,000t超の大型ダイカスト金型を安全かつ効率的に製作できる。

インターモールド展に共和工業と共同出展

2022年、東京と名古屋で開催されたインターモールド展に共和工業と共同出展。展示ブースにはインパクトのある大型の製造装置をあつらえ、メガキャスティングを印象付けるパンフレット等を活用してアピールした。

 

積極的に情報を提示することで新たな情報が入ってくる

2025年2月、米谷製作所は富山市のダイカスト部品メーカー・田中精密工業のグループ会社となった。新たに代表に就任した伊井社長は「米谷製作所は先見性のある企業。今回のギガキャストのみならず、40年以上前にCADやCAMを導入し、解析技術を研究するなど挑戦する姿勢があります。この先も金型業界において一歩先んじられる取組をしていきたい」と話す。

ギガキャストによる金型の第1号は、2024年に自動車メーカーに納品された。「まだまだ検討・フィードバックがあります。現場の社員にとっても新たな挑戦で困難なこともありますが、当社の挑戦がメディアに取り上げられてモチベーションにもなっていると思います」と小林氏。

また米谷相談役は「欲しい情報は待っていても入ってこないもの。展示会やセミナーでこちらからギガキャストの情報を出したら一気に問い合わせが増え、情報が入ってきました。この経験も大きな学びになりました」と話す。

「EVには課題も多く、今後、全固体電池の実用化が進んだ時に初めて真価が分かると思います」と伊井社長。ギガキャストは、EVに限らず現行の自動車やハイブリッド車にも応用できる。常に金型業界の先頭にいたいという姿勢のもと、自社の技術が活かせる市場について広く可能性を探りながら、米谷製作所は走り続ける。

品質管理優秀賞

長年の功績が評価され、大手自動車メーカーから品質管理優秀賞を贈られている。

 

POINT

  • EV化の流れを受け、これまで蓄積した技術を生かせるギガキャストへ挑戦。
  • 自社の強みを再検討し、提案力を磨いて展示会等で発信。
  • 顧客や市場の「半歩先を行く」ことを意識し、自社の技術で何ができるかを常に考える。

 

企業情報

株式会社米谷製作所

柏崎市田塚三丁目3-90
TEL.0257-23-5171

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