自社ブランドの世界観を構築し
真摯なものづくりと価値を伝える
おろし金の専門メーカー・ツボエでは、4代目の笠原社長とディレクター兼デザイナーの栗山氏が自社開発商品を含めたブランディングに取り組み、「ツボエの極上おろし金」「ツボエのSHIRO」「irogami」の3つのブランドを確立。3ブランドの統一感を持たせることで製品の魅力を引き出し、ツボエ全体のブランド価値を高めている。

kuriyama kaoru design
代表/アートディレクター/デザイナー 栗山薫 氏
「お客様から“プレゼントをしたら喜ばれた” “また欲しい”などの声を直にいただけるのは、作り手として幸せなこと。これからも自分たちが欲しくなる商品を作っていきたい」(笠原社長・写真右)。「ツボエさんをもっとよくしていきたいという愛があります。売上につながり、賞をいただけると私も嬉しい。愛を感じられるようなブランディングをしたいと常々思っています」(栗山氏・写真左)
“ツボエの極上おろし金”がブランド確立のきっかけに
ヤスリの製造業として1907年に創業したツボエは、3代目がヤスリの製造技術を応用したおろし金の製造を開始。4代目となる笠原社長がヤスリからおろし金専門へと転換し、OEM生産と自社製品を手掛けてきた。「OEMは商売的には安定していますが、受注に波があります。工場を安定的に稼働させるには自社ブランドの商品を作り、自分たちで稼働をコントロールしていく必要があると考えました。そこでブランドを展開していくための第一歩として、会社のロゴを変えようと思ったのです」と笠原社長。知人に相談し、紹介されたのがグラフィックデザイナーの栗山氏だった。
「最初に会社の歴史などをヒアリングされたのですが、出来上がったロゴを見て“すごくいい。私たちの技術や歴史、思いも入っている”と感じました」。その後も自社製品のパッケージリニューアルなどを栗山氏に依頼。改めてデザインやブランディングの力を感じた笠原社長は、長年構想と試作を重ねていた究極のおろし金について相談を持ちかける。「それまでもいろいろな方に相談してきたのですが、どれも形にならなくて。そこでプロダクトも手伝ってほしいとお願いしたのです」。
栗山氏は「まずはこの商品を形にしてツボエのブランドを確立していこうと決めました」と話すように、笠原社長が思い描くおろし金を二人三脚で実現し、ブランド名を「ツボエの極上おろし金」とした。「最初は“自分から極上とは言えない”と社長に反対されたのですが、歴史もあり、高度な目立ての技術もあるツボエさんの唯一無二の部分を理解していたので、極上と名付けても言い過ぎではないと伝えました」。また、パッケージはダークグレーの質感の良い紙を用い、針金で留めたシンプルな止箱を提案。「このブランドのコンセプトとして“無骨な職人魂を感じる無彩色でエシカルなパッケージ”を考えていたので、これ一択でした」。包装紙を巻かなくてもギフトとして喜んでもらえる存在感のある商品が完成した。
おろしやすい斜めの形状、滑り止めにもなるシリコーン製の蓋など細部にこだわり、機能面の工夫を盛り込んで完成した「ツボエの極上おろし金 箱-hako-」。伝統を感じさせるシンプルなデザインながらパッケージは接着剤を使わないなど環境も意識する。極上ブランドの第二弾、わさび専用の「ツボエの極上おろし金 丸皿-maruzara-」と、しょうが専用の「ツボエの極上おろし金 角皿-kakuzara-」は刃と容器の形状を徹底的にこだわった。
「ツボエ」ブランドを明確に
打ち出すためのパッケージ構成
「ツボエの極上おろし金」に続き、おろし金をより快適に使うための商品群を「ツボエのSHIRO」として発売した。極上おろし金と一緒に売場に並べることで、セットで購入したくなるような機能性のあるアイテムを、ホワイトのシンプルなパッケージで展開している。
一方、3つめのブランドとして若者や海外をターゲットに開発したのが「irogami ひとひらのおろし金」だ。手のひらに固定してチーズなどを手軽におろすことができる形状や、10色のカラーバリエーションなど、これまでにない機能美と装飾美で海外の展示会でも好評を得るが、課題となったのがプラスチック製のパッケージだった。「海外では環境保全のためプラスチックが敬遠されるので、パッケージのリニューアルを栗山さんに依頼しました」。リニューアルでは環境への配慮から素材を紙に変更し、irogamiのしなやかな曲線を丸みのある形状に反映した。また、極上おろし金のダークグレー、SHIROのホワイトとの統一感を考え、irogamiには中間色であるアイスグレーを採用。使用シーンが一目でわかる親しみやすいイラストで、製品の特徴を視覚的に伝えている。
「リニューアルをする際に社長から3つのブランドをまとめてブランディングしてほしいと言われました。そこで3ブランドの商品を並べたときに全てがツボエの商品だと分かるように統一感を出し、相乗効果で商品がより魅力的に見えるような戦略を立てました」と栗山氏。
リニューアル後に新潟伊勢丹でポップアップイベントを行うと、売上が前年の数倍に増加。さらに「日本パッケージングコンテスト」をはじめ「Topawards Asia」「WorldStar Packaging Awards」など海外コンテストでも入賞を果たす。「極上おろし金を作ってから数々の賞を受賞し、メディアで取り上げられたことで社員のモチベーションがすごく上がりました」と笠原社長。会社のブランド力が浸透してきたことで、意欲のある若手の人材獲得にもつながっているという。
「ツボエのSHIRO」ブランド。おろし金用ブラシスポンジ、おろし金用国産竹やくみ寄せ、お手入れ棒ブラシなど、ツボエの商品を快適に使うためのアイテムを揃えている。
おろし金用ブラシスポンジは、ベストセラー商品の一つ。パッケージの統一感があることから、極上おろし金とセットでギフト用に購入する人も多い。
「irogami ひとひらのおろし金」は10色のカラーバリエーションが好評。アイスグレー色で包むことで鮮やかなメタリックカラーの彩度を少し落とし、ブランド全体のトーンの統一を図った。用紙は厚さと強度、凹凸の風合いがあり、森林資源に配慮した認証紙を採用している。
加工技術を応用した新商品
世界に通用するブランドへ
「irogami」ブランドでは第2段として箸置きと箸を発売。すでに第3弾、4弾も企画し、海外の販路も拡がるなど順調な展開をみせている。「おろし金が主軸ですが、irogamiというブランドを作ったことでおろし金以外の展開ができるようになってきました。箸置きや箸も、おろし金で培った特殊な金属加工ができるからこそ実現した商品。今後も目立てをはじめとする加工技術を活かしたものづくりを展開することで、世界に通用するブランドにできるのではないかと考えます」と笠原社長。栗山氏も「ただのアイデア商品にならないように、何か一つギミックを付けるというのがこだわりです。プロダクトデザイナー、社長、私を含めチームで知恵を絞っていきたいです」と話す。今後はインテリア系の展示会に出展し、これまでとは異なる客層にもアプローチしていきたいという。
「ツボエの極上おろし金」「ツボエのSHIRO」「irogami」、それぞれのブランドの特徴を活かしつつ、統一感を保つことでブランド全体の世界観を打ち出すことに成功した同社。培ってきた職人の技、魂を受け継ぎながら、世界中の人に喜ばれる商品を生み出し、その価値を伝えていく。
左が変更前のパッケージ。リニューアル後はギフト需要が増加。
色紙をめくったような形とやさしい光沢が、テーブルに彩りを添える「irogami 箸置き」。中心に傾斜を設けることで箸が転がるのを防ぎ、食前は箸先を保護する箸袋の代わりにもなる。
企業情報
株式会社ツボエ
燕市幸町8-4
TEL.0256-64-2772