第32回 ニイガタIDSデザインコンペティション 2022
総評

第32回 ニイガタIDSデザインコンペティション 2022

第32回 ニイガタIDSデザインコンペティション 2022総評

以前、2010、2016年に審査委員をお受けして以来、今回審査委員長という大役をお受けすることとなり、ご高名な審査委員の方々の中で身の引き締まる思いです。

以前の審査会からは随分経ちますが、明らかにコンペ自体の傾向に変化がみられるように思いました。それは、昨今の時代性が影響しているように思います。世界的なパンデミックや国際紛争など不確実性が増すに従い、「もの自体を所有する喜び」から「ものや仕組みを通してどんな未来を見せてくれるのか」といった明日への期待感に変わってきているように思います。それで、今回のコンペの傾向を私なりに分析してみました。

コンペにエントリーされた商品は、先ず大きく「もの自体のデザイン」と「仕組みのデザイン」に分かれます。また、別な角度で見ると「新提案デザイン」か「改良提案デザイン」に分かれます。さらに、ものや仕組みは、「パーソナル寄り」か「ソーシャル寄り」かに分類できると思います。これによって、以下のようなマトリックス表が考えられ、今回のコンペの傾向が俯瞰できるように思います。

 

ニイガタIDSデザインコンペティション2022 提案分類マトリックス表

➀パーソナルなもの+新提案

今年のこのパーソナルなもの分野の特徴は、提案品の意図するアイデアや価値観がユーザーに伝わりやすい直感的な企画デザインになっていることです。それによって、これを使うことによって、どんな楽しさが始まるのか、何が変わるのか、そういった影響力が見える商品が多かったように思います。IDS大賞/新潟県知事賞を受賞した「くみ木の森」では、絵本でお話ししながら子供と一緒にどうぶつ積み木を探す優しい時間を私たちに想像させてくれます。IDS準大賞となった「KOGUシリーズ」はパンにポケットを切り込んで何を挟もうかと考えているシーンを、容易に私たちに想像させてくれます。IDS賞の「マルチパスタパン」は、パスタを浸して生麵に変える体験をやってみたいと思わせてくれます。IDS審査委員賞の「NEST」はインテリア対応の祭壇で、部屋を暗くしていた今までの仏壇のイメージと置き換えて比較想像する人が多いかも知れません。ハサミが缶切りなど8つの機能を果たすIDS賞の「8in1マルチコンパクトハサミ」や、ポケットから取り出した名刺ケースをコンロに早変わりさせるIDS審査委員賞の「TSBBQカードコンロ」などが、キャンプで息子たちに尊敬されるにはピッタリかと私たちに容易に想像させてくれました。

 

②ソーシャルなもの+新提案

次に紹介するこの分野は、ものを通じて社会課題に取り組み、その動きが解決へと広がっていく分野です。ここでは新潟だけにとどまらず、地域が抱える問題とそのスマートなソリューションを見せてくれました。

 

③パーソナルなもの+改良提案

この分野は、次々と新しいものが入れ替わっていく市場で、継続して改良を重ねブランドを育てていくことに価値を置いている商品が多く、実際にデザインレベルも非常に洗練されていました。次年度のコンペでは、改良提案分野を新たに創設したいと思うほど、今のサステナブルを求める時代背景を得た分野だと思います。コンペでは一旦受賞した商品の改良版が再度受賞するのを避ける傾向があるため、新作と分けて改良進化の分野をすくい上げる必要があると思うのです。

 

④ソーシャルなもの+改良提案

この分野も、③と同じくものの改良提案の分野ですが、社会課題の解決によって不特定多数の人たちが恩恵を受けていく商品ですので、時代に応じた変化と継続性が問われる分野です。ここでは、IDS賞として「NK-125MA」というグラインダーカバーが受賞しました。グラインダーで発生する粉塵を吸い込んで肺疾患になる職業病に対して、複数のメーカーに対する互換性を可能にしたことで、使えるユーザーが格段に増える進化を果たしています。

 

⑤ソーシャルな仕組み+新提案

最後に紹介するこの分野は、ソーシャルな仕組みを新たに提案しています。IDS賞の「Co育てワーキングステーション長岡」は、保育事情が直面する課題に対し、仕事をしながら同じ場で子育てをシェアできるしくみが提案されていて、事例の拡がりが期待できるアイデアだと思います。

 

 

 

今年で32回目となるニイガタIDSデザインコンペティションは、試作品や製品を流通やメディアなどの出口戦略に長けた専門家や企画、デザインなど入口の戦略に長けた専門家で構成する審査委員でものづくりを評価し、より良き方向へとサポートしています。この一貫した入口から出口までを、メーカーの目線以外で見ていくことは製品開発に置いて非常に大切ですが、実際にこういった施策を行い、32年も継続している事例は見たことがありません。実は私は、この一風変わったコンペが新潟を世界のトップ地域ブランドに導いたのではないかと確信しています。お能の世界では、自分の目線を我見、第三者の目線を他見と呼んでいまして、世阿弥もこの他見の大切さを説いています。この他見の目を借りて自分の企画やデザインを見ることができ、我見だけで猛進してきた自分では気が付かなかった盲点に気付くことができる機会だと思うのです。中には苦いコメントもあろうかと思いますが、苦い妙薬は次にはいい結果を生むことに他なりません。是非、改良進化を果たされ、今一度渾身の成果をご披露ください。

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